りぼんの読書ノート

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火環(ひのわ) 村田喜代子

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八幡炎炎記の完結編です。舞台は戦後の復興期から高度経済成長期へと向かう製鉄の街・八幡。主人公は著者の分身であるヒナ子なのですが、彼女の祖母サトを長女とする三姉妹の一族の視点が入れ替わる群像小説となっています。

気のいい建具職人の貴田菊二を夫に持つ信心深いサトは妹たちや孫や姪たちを気遣い、ひとり娘の百合子は、何かと物足りない二度目の夫とも離婚してヒナ子と弟の幸生を女手一つで育てようと決意。下宿屋と貸金屋を営む江藤辰蔵と暮らす3女のトミ江は、相変わらず病弱で影が薄い存在。腕の良いテーラーながら女癖の悪い瀬高克美と駆け落ちして広島から舞い戻ってきたしてきた次女のミツ江は、養女の緑を育て上げたものの、大量の出血をして病に倒れてしまいます。

前巻で生命力の強さを見せた大人たちが次第に老いていく様子には、時の流れを感じさせられますね。そんな中で「二十四の瞳」や「ゴジラ」などの映画によって心に火を宿されたヒナ子は、中学卒業を前にシナリオ作家への道を模索し、密かに上京を企てるのですが・・。

タイトルの「炎炎」とは、溶鉱炉の炎であり、原爆の炎であり、ゴジラの炎であり、八幡を復興させた朝鮮戦争の炎であり、ひとりひとりの女性たちの心と身体に宿る炎でもあるのです。登場人物たちの誰を取り上げても「一代記」の主人公になりえるエピソードの断片が詰まった、著者の自叙伝的小説です。もっと読み続けていたいと思わせてくれた作品であり、第2作目での完結は少々残念でした。

2019/1