りぼんの読書ノート

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革命前夜(須賀しのぶ)

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ライトノベル」から「一般小説」へと転身を果たした著者ですが、小説の完成度が高くなっている反面、以前の奔放さが失われているようなのが気になります。

本書の舞台は、「ベルリンの壁」崩壊前夜の東ドイツ。日本からの留学生としてドレスデン音楽大学にやってきた眞山青年の視点から、国家が崩れていく際の混乱を描き出します。国民の半数が密告者だったという「スパイ国家」が崩壊するとき、人間関係もまた壊れてしまうのでしょう。

著者は本書のことを「音楽小説ではない」と言っていますが、前半の楽曲表現は楽しめました。破壊的なヴェンツェルと正統派のイェンツという2人のヴァイオリニスト、ツンデレのオルガン奏者クリスタ、パワフルな北朝鮮からの留学生・李と、繊細なヴェトナムからの留学生スレイニェットという2人のピアニスト。

彼らの音楽的特徴は、それぞれの人間性を反映させており、さらには革命の中で果たした役割と連動していきます。伏線の引き方も的確ですし、意外性もあるのです。解明すべき謎もあるし、大きな事件も起こる。冒頭で述べたように完成度も高いのに、なぜ物足りなく思ってしまったのか、

ひとつには、主人公のキャラがあまり魅力的でなかったこと、さらには主人公が傍観者的でありすぎたことが原因なのでしょうか。著者は、「(日本人の読者が)共感しやすい日本人の視点」を選んだと述べていますが、このあたりは好みの問題かもしれません。

神の棘と本書と、ドイツを舞台にした作品が続きましたが、著者はさらに「ワイマール共和国」を描く構想を持っているようです。期待しています。

2015/8