りぼんの読書ノート

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十二国記 ⑤図南の翼(小野不由美)

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この世界では、王や伯や仙となると不死の存在となるため、身体の成長もそこで止まるんですね。前巻で、まだ我儘娘だった祥瓊に厳しくあたり、悪王を討った恵侯に王位簒奪を進めるという、独特の鋭い切れ味を見せた恭国女王の珠晶は12歳の少女形。でもこの時には既に即位後90年が経っています。シリーズ第5部は珠晶が12歳で即位に至るまでの物語。

先王が斃れてから27年。王を失くした恭国の治安は乱れ、災厄は続き、妖魔までが徘徊するほどに荒んでいました。王座を望む人々は神獣・麒麟に天意を諮るために次々と蓬山を目指すのですが、いまだ王は選ばれないまま。そんなな中で、豪商の父をもち不自由のない生活と充分な教育を受けて育ちながら、国を憂う少女が立ち上がります。「恭国を統べるのはあたししかいない」。珠晶、12歳の決断です。

もちろん人々は、世間知らずのお嬢さんの気まぐれと笑います。しかし本人も、自分がそんな器であるはずもないとわかっているのです。しかしそれでも少女は、妖魔の棲む黄海を抜けて蓬山へと向かう過酷な旅に出るのです。王の不在を放置できない。王を目指すのは国民の義務と思うからだと。そして旅の中で成長する少女は、一国を動かすほどの強運を見せ始めるのです。

『東の海神 西の滄海』で荒野に去っていった更夜が、意外な形で再登場。あれから300年ほど過ぎた計算になるでしょうか。また500年もの長い期間、磐石の統治に揺るぎを見せない南の大国・奏の王朝の内部が垣間見られます。ここは理想的な家庭が営むファミリー・ビジネスのスタイルなんですね。放浪癖を生かして諸国の実情を調査している次男が、珠晶の登極に重要な役割を果たしています。

王道にも、天意の現れにもさまざまな姿があるということなのでしょう。
この世界における「天意」については、次巻で疑問が投げかけられることになるのですが・・。

2012/12