りぼんの読書ノート

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盾・シールド(村上龍)

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「わたしたちの心とか精神とか呼ばれるもののコア・中心部分はとても柔らかくて傷つきやすく、様々なやり方でそれを守っているのではないか。そのための色々な手段を『盾・シールド』という言葉で象徴させてみた」というのが、村上龍さんが本書を書かれた動機です。

コジマとキジマという2人の少年の物語が寓話的に描かれます。優等生でいい子だったコジマは、高校時代に心が折れる経験をしてひきこもり気味になっていく。人の言うことを聞かない天邪鬼だったキジマは、ボクシングを通じて自信をつけたことから、一流企業に就職して出世の階段をのぼっていく。でも、2人の人生の浮き沈みは終わりません。犬の訓練をはじめたコジマは、愛する人とめぐり合い、大切なものを手に入れる。キジマはリストラにあって、それまで自分を守ってくれたものを失ってしまう。

「シールド」には、個人的なものと集団的なもの、内部的なものと外部的なものがあるようです。組織への帰属を「シールド」とすることが悪いわけでもないし、苦労して身につけた「シールド」がいつも素晴らしいものということでもない。村上さんが提起したのは「考えるヒント」にすぎないのでしょう。

では自分のことを振り返ってみると、これがなかなか難しい。生きることを肯定する気持ち。生き方を規定する価値観。その生き方を実現する為のバックボーン。まず、ここまではわかります。では、その生き方が根底から崩されたとき、たとえば愛する人の死や生活的な困窮に直面してしまったら、戦争や天災に遭遇してしまったら、そのときに「シールド」になるものはあるのか。ありきたりな答えはないのでしょう。結局はその時になって、得てきたものと失ったものの間で、もがき苦しむしかないように思えます。

2009/2