1.影ぞ恋しき 上下(葉室麟)
2017年12月に亡くなった著者の最後の長編小説は、「雨宮蔵人3部作」の最終巻でした。天下泰平の中で元禄文化が花開いた時代には、平和と引き換えに「武士道」の意味が見失われ始めていたとのこと。そんな時代に武士道の本質を問題提起したものは、肥前鍋島藩で書かれた「葉隠」と「赤穂浪士討ち入り」だったそうです。価値観が激動する時代に「義」を体現した雨宮蔵人の生きざまが完結します。吉良上野介の孫娘を養女とした雨宮に対する幕府の陰謀は、どのような決着を迎えるのでしょう。
2.リンカーン・ハイウェイ(エイモア・トールズ)
「リンカーン・ハイウェイ」とはモータリゼーションに先立って1913年に構想され、1920年代から1930年代にかけて整備されたアメリカ最初の大陸横断道路の通称です。事情あって少年犯罪を犯し、収容期間満了で更生施設から退所したばかりの18歳の青年エメットが主人公というと、「青春ロードノベル」のようですが、本書の結末は少々ダークです。『モスクワの伯爵』と『賢者たちの街』の著者らしく、登場人物たちの心の奥深くまでを感じさせてくれる作品でした。
3.剣樹抄3(冲方丁)
4歳の時に父親を旗本奴に殺され、育ての親も明暦の大火で失った少年・了助の成長を描く3部作の最終巻。若き水戸光圀に木剣の腕を認められ、特殊な才能を持つ捨て子たちからなる隠密組織「拾人衆」に組み入れられた了助は、幕府転覆を目論む異能力者集団「極楽組」と対峙していきます。光圀こそが父親の仇と知った了助は、難敵との対決を通して、わだかまりを昇華させることができるのでしょうか。そして了助にはどのような未来が広がっていくのでしょうか。
【次点】
・かくも甘き果実(モニク・トゥルン)
・曲亭の家(西條奈加)
【その他今月読んだ本】
・墨のゆらめき(三浦しをん)
・うさぎ玉ほろほろ(西條奈加)
・涅槃の雪(西條奈加)
・てらこや青義堂(今村翔吾)
・パリのキッチンで四角いバゲットを焼きながら(中島たい子)
・ラファエッロの秘密(コスタンティーノ・ドラッツィオ)
・理由のない場所(イーユン・リー)
・アキレウスの背中(長浦京)
・フォワード 未来を視る6つのSF(ブレイク・クラウチ/編)
・老人ホテル(原田ひ香)
・「神話」の歩き方(平藤喜久子)
・キリエのうた(岩井俊二)
・恐るべき緑(ベンハミン・ラバトゥッツ)
・一角獣・多角獣(シオドア・スタージョン)
2024/11/30