りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

さようなら、コタツ(中島京子)

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短いまえがきに「この短編集の裏タイトルは、へやのなかである」とあったように、部屋の中での出来事を描いた7編の物語です。部屋というのは「舞台」なんですね。出会いや別れが繰り広げられる「表舞台」でもあり、ひとりで思い悩む「裏舞台」でもあるようです。

恋人と一緒にすごそうと思っていた記念日の夜に、娘の部屋を突然訪れてきた父。老いた父は、振るわなくなった家業を閉じる決断を下したばかり。微妙な空気の中で、かつて実家で両親と暮らした日々や、実家を飛び出したころの自分を思い出す娘ですが、自分がレズビアンであることは言い出せませんでした。でも、この一夜の体験が、彼女に新しい決意をさせることになるのです。(ハッピー・アニバーサリー)

恋少ない女であった15年間をともにすごした「戦友」であるコタツを捨て去り、好意を持っている男性を誕生日に招待し、朝から張り切って手料理を作って待っている女性ですが、約束の時間を過ぎても男性は訪れてきません。彼女はひとり、部屋の中で想いをめぐらせるのですが・・。(さようなら、コタツ

時として部屋は、そこに不在である者を偲ばせる空間であり(八十畳)、隣人の生活を想像させてくれる空間でもあり(ダイエットクイーン)、人生の最期のひとときをすごす空間でもあるのです(私は彼らのやさしい声を聞く)。また同じ部屋で暮らしていながら、互いに見ているものがまったく違うということもあるんですね。(陶器の靴の片割れ)

あらためて自分の部屋を振り返ってみると、ひとつひとつの家具や内装や小物にまでそれぞれにまつわるエピソードがあることを、改めて感じずにはいられません。思い切って何かを変えたい時に部屋を変える・・という気持ちもわかる気がします。

2007/12