りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

無知(ミラン・クンデラ)

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著者はチェコからフランスに亡命した作家でありながら、ビロード革命による祖国解放後もフランスにとどまっています。私なども「なぜ帰国しないのだろう」と思っていた1人でしたが、その答えが本書にありました。本書のテーマは、亡命からの帰還者が味わう「残酷な孤独」なのです。

イレナはパリから、ヨゼフはデンマークから、チェコに帰還。祖国の解放を願っていた亡命者なら、祖国へ「凱旋」したいはず。しかし、友人らに「大いなる帰還」を勧められた彼女らを待っていたのは、「2度めの祖国喪失」だったのです。

チェコにとどまっていた友人や家族に再会した彼女らは、亡命生活には関心を持ってもらえないことを思い知らされます。せいぜい期待されるのは、20年前のことを覚えているかどうか? 20年前と現在を「接ぎ木」するような会話ばかり。

亡命生活のことを語ろうとすると、返ってくるのは「祖国に踏みとどまった者たちが、いかに大変だったか」という苦労話、いかにも、逃亡した後ろめたさを感じろと言わんばかりに・・。

小説とも、エッセイとも、論文とも分類しがたい、著者独特のスタイルで語られた、美しい文章です。語られているのは、著者自らの心情なのでしょう。

2005/9