りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

魂萌え!(桐野夏生)

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「犯罪小説家」のイメージがあった桐野さんですが、この作品では、一転して「老いの問題」に向き合いました。1日で読んでしまったのが惜しまれる名作です。

平凡な生活を送っていた59歳の主婦・敏子の夫が急死。同居を迫る長男夫婦や、生活の定まっていない娘との相続問題に加え、夫が不倫していたという衝撃が彼女を惑わせます。世間知らずで、自分で何も決めてこなかった敏子にとっては、どうしたらいいのか、全てが訳のわからないことばかり。長男夫婦との同居問題一つをとっても、決断はブレまくります。

亡夫の友人から不倫を求められたりもしちゃうし、女性の友人たちとの関係もギクシャクしてしまう。私から見ても、このおばさん、頼りなさすぎ。それでも敏子は「老いと孤独」に向き合う決意をするのです。「これから先は喪失との戦いなのだ」と。まさに、魂も萌える「初老のビルディング・ロマン」。

この小説では、犯罪は起こりません。でも、敏子が闘う相手は、「OUTの雅子」や「グロテスクの和恵」が闘って敗れたのと同じ相手、すなわち「世間と自分自身」なのでしょう。しかもこれは、誰もが経験しなくちゃいけない闘いなのです。私の母なども、ずっと孤独に闘っているんだろうな。母に薦めたいけれど、薦めていいのかどうか悩ましい本です。

2005/8