19世紀の大本格小説『レ・ミゼラブル』で有名なユゴー先生が、晩年の70歳の時に書いた最後の長編。
もちろん「93年」とは、1793年のこと。ルイ16世と王妃アントワネットの処刑によってはじまったこの年、フランス革命は大きな危機を迎えます。国外にはイギリスをはじめとする諸外国からの干渉戦争。国内では、王党派と農民によるヴァンデの内乱。革命政府内では、ロベスピエール、ダントン、マラーの対立。
この激動の年を舞台にして、ユゴー先生は「人間の良心」を描いていくのです。まるで、ジャン・バルジャンに「自分が犯人だ」と証言させたように・・。ヴァンデ農民軍の指揮官である王党派のラントナック侯爵。冷徹な革命政府を代表するシムールダン。そして人民と革命の理想を信じる寛容なゴーヴァン。この3人が、革命の大義と人間愛の間で揺れ動き、ドラマが生まれます。
ストーリーは、緻密な現代小説に慣れた目で見たら、むしろ稚拙。思想的にも、あまりにも理想を単純化しすぎて、微笑ましいくらい。でも、当時の小説は心を打つのです。その思想に行き着くまでに多くの血が流され、その理想を守り抜くために多くの者が犠牲になったことを知っているから・・。
ユゴーはナポレオン3世のクーデターに反対して、19年間の国外亡命生活を送り、晩年は国民議会の議員にもなりました。彼自身、理想を信じたバリバリの共和主義者だったのです。
たまには、こういう「大文学」もいいな。久しぶりに、トルストイかロマン・ロランでも読み直してみようかな。
2005/8