りぼんの読書ノート

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博士の愛した数式(小川洋子)

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整数論というのは「数学の女王」だそうです。理論が美しいことが理由のようですが、言葉も美しい。完全数友愛数、婚約数、双子素数など、むしろ文学的。数字そのものに、特別の意味と関係があるかのようです。

事故以来、元数学者の「博士」の世界は凍ってしまいました。彼の記憶は、80分の容量しかなくなってしまったのです。だから、新しい家政婦のことも翌朝には忘れているし、楽しいことも悲しいことも、80分後には忘れ去られてしまう。

でも、事故以前の、数学と教育への情熱の記憶は失われてはいません。博士が、家政婦の10歳の息子を「√(ルート)」と呼び、3人が心を通わせていく様子が、美しい小説です。やがて博士の80分の記憶タイマーすら壊れてしまった後に、成長したルートが父親とキャッチボールをする様子は泣かせます。

自分の親しい人が記憶を失ってしまったら、どうするか。どうやって、その人と楽しみを共にできるのか。私には、まだ、ちょっと重いテーマです。

(注)用語解説
完全数:自分自身以外の約数の総和が自分自身に等しくなる整数
友愛数:約数の和がお互いの数自身になる2つの整数
婚約数:1を除く約数の和がお互いの数自身になる2つの整数
双子素数:差が2である2つの素数

2005/8