りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ホワイト・ティース(ゼイディ・スミス)

イメージ 1

作者のゼイディーは1975年生まれで、イギリス人の父とジャマイカ人の母を持つ、ロンドン生まれの混血美女。この本を書いたときは24歳だそうです。

「ロンドンの20世紀は客人の世紀だった」。つまり世界中の大英帝国から、移民を受け入れて来たわけです。タイトルの「ホワイト・ティース」とは、「人種が違ってもみんな白い歯をもつ同じ人間」という意味のだとのこと。

物語の核にあるのは、2世代にわたる2つの家族の関係。ロンドンの下町っ子アーチーの家族は、ジャマイカ人の妻クララと一人娘アイリー(たぶん作者自身がモデル)。バングラデシュ出身の誇り高きイスラム教徒サマードの家族は、ベンガル出身の妻アルサラと、双子の息子のマジドとミラト。

前半は、親の世代の話。アーチーとサマードが、戦争で一緒の部隊にいて知り合ったいきさつや、それぞれの祖先の話や、雑多な民族が入り混じるロンドン下町の生活。そして、それぞれの恋愛と子育ての苦労。

後半は、アイデンティティに悩む子供たちの世代の話。混血であることを悩むアイリーの思春期や、すっかりイスラムを捨ててクローン研究に関わるマジドと、対照的に、イスラム原理主義者とつきあうミラト。移民社会の世代間対立も深刻なテーマです。

遺伝子工学者がクローンマウス計画を発表する大晦日の夜、イスラム原理主義者(もちろんミラトと仲間)、エホバの証人(アーニーの祖母たち)、動物愛護主義者(遺伝子工学者の息子たち)などが一堂に会して、混沌の中、物語はクライマックスを迎えます。

現代のロンドンに実在する、複数の異文化の軋轢と融和。コミカルなタッチで、時には暴走気味にもなる、若い作者ですが、「多様性こそがイギリスの活力の源泉」という主張を強く感じます。そんなロンドンで、生活苦から抜け出せない移民2世・3世によって、爆弾テロが引き起こされてしまいました。UKは、9.11以降のアメリカのようにはなって欲しくないな。合言葉は「ヒューチャー・パーフェクト!(未来完了系=未来は完全?)」^^

2005/8