りぼんの読書ノート

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散り椿(葉室麟)

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18年前に上役の不正を訴え出て逆に藩を追われた瓜生新兵衛が、亡き妻・篠の最後の願いを果たすために帰藩したところから物語が始まります。しかし当時の事件はまだ解決していないどころか、藩主の代替わりを前にして藩内の情勢はただならないものになっていたのでした。しかも、かつて道場の四天王と呼ばれて切磋琢磨しあった友人たちの立場もまた、大きく変わっていたのです。

新兵衛とは剣でも恋でもライバルであった榊原采女は、側用人となって権勢をふるっていました。しかも新兵衛が訴えた上役とは采女の養父であった平蔵であり、後に何者かに殺害されていたのです。その下手人と疑われた坂下源之進は、家老から無実の罪を着せられて自害。その息子で新兵衛の甥にあたる坂下藤吾は、減俸された一家を再興するために出世を目指しています。もうひとりの篠原三右衛門は娘を藤吾に嫁がせる約束を破談とするなど事なかれ主義に徹しているようですが、何やら裏もありそう。

一連の陰謀の裏にあるものとは何なのか。榊原平蔵を斬った下手人は誰だったのか。篠の想いはどこにあったのか。心ならずも事件の渦中に巻き込まれてしまった若い藤吾は、どのような道を選ぶのか。このあたりは時代小説の醍醐味ですね。極限状況に追い込まれながら、それぞれの信念に基づく美学を貫こうとする人間模様は、国宝級の掛け軸のように完成度が高いのです。タイトルの意味は「散る椿は、残る椿があると思えばこそ、見事に散っていける」とのこと。

かつて黒澤明監督のもとでカメラマンを務めた木村大作氏が監督を務め、岡田純一(瓜生新兵衛)、西島秀俊(榊原采女)、池松壮亮(坂下藤吾)、麻生久美子(篠)、黒木華(篠の妹)、芳根京子(藤吾の許嫁)らの配役で映画化されるとのことです。

2018/2