りぼんの読書ノート

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ベルカ、吠えないのか?(古川日出男)

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何を言いたいのかさっぱりわからないけど、面白いことは面白い。「戦争の世紀」である20世紀を、太平洋戦争中に日本軍が撤収したアリューシャンキスカ島に残された4頭の軍用犬にはじまる「イヌたちの世紀」として描くのです。「うぉん」。^^

最初の4頭も、その子孫たちも、それぞれ数奇な運命をたどります。米軍のエリート軍用犬として種イヌとなったオス。彼の子供たちは朝鮮戦争に出陣し、一部は中国軍に囚われ、子孫たちはやがてヴェトナムで敵味方に別れて戦います。

アラスカに留め置かれて犬ぞりチームのリーダーとなったイヌ。彼の子孫たちは雑種交配を繰り返し、時には狼とも交わりながら1種1頭の最強犬となり、シベリアに、北米に流れていきます。

そしてイヌたちは1957年11月に、空を見上げるのです。彼らの上空では、スプートニク2号に乗り込み地上の生き物でははじめて成層圏に達した、ライカ犬が地上を見下ろしていました。初代の宇宙犬は飛行中に死亡しますが、2代目は生き残りました。その2頭こそ、ベルカ(雄)とストレルカ(雌)であり、その後の旧ソ連の軍用犬の祖となったイヌたちに、ほかなりません。

それぞれ数奇な運命をたどったイヌたちは、やがて、ヴェトナムで、シベリアで、アフガニスタンで、旧ソ連の特殊軍用犬チームに加わっていくことになるのですが・・。

「イヌよ。イヌよ。おまえたちはどこにいる?」との呼びかけではじまる各章は、格調高いとはお世辞にも言えないけれど、妙な迫力に満ちています。だからこそ日本のヤクザがからむ部分と、ラストの無理な展開が惜しまれるのですが・・。

2006/1