りぼんの読書ノート

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影の王国(アラン・ファースト)

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第二次世界大戦直前のパリ。ハンガリーの伯爵家の甥であり、広告代理店を営む男のもうひとつの顔は、ナチスに対する「影の戦線」に仕えるスパイでした。この本、通常のスパイ小説と異なって、彼の活動の目的がなかなかはっきりしてきません。

ある時は追われている男をチェコから脱出させたり、ある時は祖国ハンガリーの秘密警察に捕らえられたり、ある時はポーランド各地の状況を視察したりするけれど、それがどう反ナチス行動なのか見えてこないのです。そういえば「影の戦線」と実態も、最後まで不明です。

でも、そこから浮かび上がってくるのは、中世的な要素を色濃く残した東欧の各都市における開戦直前の緊迫した状況です。当時の時代を生きた者たちには、入手できる情報も限定され、ましてや将来を予見することなどできなかったのですから。

2006/12