りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2006-12-16から1日間の記事一覧

かくれさと苦界行(隆慶一郎)

『吉原御免状』の続編です。というより、長いエピローグみたいなもんかな。前作で「秘密」は全部明らかになってしまい。宿敵・裏柳生とも、一旦は決着がついてしまっていますので。 さすがに何の展開もないと本の体裁を為さないので、裏柳生は復讐に燃えてリ…

吉原御免状(隆慶一郎)

今度は、ちゃんと隆慶一郎さんの本です。こういう時代物は、あまり読んだことがありませんでした。 オープン間もない吉原に登場した青年は、なんと天皇の御落胤で、宮本武蔵に育てられた剣の達人。なぜか彼を付け狙う「裏柳生」。彼を守り、一族の未来を託そ…

雨にもまけず粗茶一服(松村栄子)

京都の大学に行かされるのが嫌で家出した、東京の茶道家元の長男。ところが家出して行き着いた先は京都。そこで思いがけずも「茶人たち」と交流して「茶の心」に通じる体験をしてしまった結果、修行を決意するというお話。一種の「貴種流離譚」なのでしょう…

わたしの名は紅(オルハン・パムク)

16世紀末のイスタンブール。オスマン・トルコ王朝はまだ絶頂期ながら、レパントの海戦に破れて領土拡張は一頓挫。貿易の中心は地中海から大西洋に移りつつある中、社会・経済面での綻びが見え始め、イスラム原理主義が誕生し勢力を強めていく時代。この頃…

だれも猫には気づかない(アン・マキャフリー)

「SFの女王」として名高い著者ですが、本書はむしろファンタジー。 中世のエスファニア王国で名摂政が亡くなり、若い国王・ジェイマス5世の統治には不安がいっぱい。妃選びや、隣国の陰謀など、大事件も次々と起こってしまいます。でも、ご安心あれ。亡く…

箱ちがい(スティーブンスン/オズボーン)

19世紀イギリスを代表する冒険小説『宝島』の作者が書いた「お気楽コメディ」。義理の息子であるロイド・オズボーンの考えたプロットに、スティーブンスンが手を加えて仕上げた本だそうです。 当時のイギリスには、最後まで生き残った1人が、莫大な金額を…

からくりからくさ(梨木香歩)

「結界」を感じる本です。不思議な人形「りかさん」を中心にして、染色、機織りなどの「手仕事」に携わる若い女性4人が同居する共同体。まさに「結界」です。そこに男性の影が差すことによって引き起こされる波紋。「りかさん」の過去を調べることによって…

君はこの国を好きか(鷺沢萠)

鷺沢萠さんも、ラナが紹介するまで全然手に取ったことのない作家でした。「萌」という名前から、「ロリコン系?」などとイメージしてたかも(笑)。 作者は、韓国人とのクォーターだそうです。この本は、在日韓国人が日本と祖国に感じる素直なとまどいを描い…

明治殺人剣(峰隆一郎)

なんと「隆慶一郎」さんの本のつもりで、「峰隆一郎」さんの本を借りてきてしまいました。読み終わっても間違っていたことに気づかず、ラナから「隆慶一郎の本、何を借りたの?」と聞かれてこの本のタイトルを答えたら、「そんな本ないよ」といわれてはじめ…

アブダラと空飛ぶ絨毯(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

映画の原作『ハウルと火の悪魔』の続編です。ソフィーとハウルは結婚して、もう赤ちゃんまで生まれています。 でも残念ながら、この本の主人公はハウルやソフィーではありません。絨毯屋の青年アブダラが、空飛ぶ魔法の絨毯を手に入れて、さらわれてしまった…

ある家族の会話(ナタリア・ギンズブルグ)

北イタリアの大学教授の末娘として生まれた、イタリアを代表する女流作家の自伝的小説。著者の少女時代で描かれるのは幸福な一家の姿。社会主義に共感を持ち政治的にリベラルでありながら、家庭内では家父長として滑稽なまでにワガママな父と、そんな父に手…

シビュラの目(フィリップ・K・ディック)

読書ノートが途絶えていたのは、帰省の時に本を忘れたため。急に実家に帰ることになって、あわてていたようです。TV漬けの数日をすごしてしまいました。^^; この本の作者は独特の世界観を持った人で、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』や『流れよわ…

ウォーターランド(グレアム・スウィフト)

「ノーフォークはイングランドのロストコーナー」との言葉が、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』にありました。決して、豊かではない地方なのでしょう。この本は、ノーフォークの沼沢地であるフェンズ地方を舞台に水と深く関わってきた祖先たちと家…

ラブ(トニ・モリスン)

ホテル王のコージーが孫のクリスティンと同じ年のヒードを後妻に迎えてから、幼なじみの2人は財産を巡る争いを続けて、憎しみあって長い年月をすごし、今や老女となっています。コージーはとうに亡くなり、ホテルも既に朽ち果てているのに・・。 2人の間に…

天使に見捨てられた夜(桐野夏生)

新宿に蠢く不気味なカルトを旧東独のネオナチと結びつけた『顔に降りかかる雨』に続く、探偵・村野ミロシリーズの2作目。 フェミニズム活動家からの依頼で、失踪したAV女優・一色リナの捜索に乗り出すミロが見ることになるのは、壮絶なAV撮影現場と、何…

アメリカ第二次南北戦争(佐藤賢一)

2013年。アメリカ初の「女性」大統領がダラスで暗殺され、その後を継いだのはやはりアメリカ初の「黒人」大統領。彼の打ち出した「銃規制法案」への反発から南部諸州が独立し、アメリカは「内乱」へと突入していきます。 でもこの本は「戦争小説」ではあ…

水晶内制度(笙野頼子)

日本政府に黙殺された女達の「きったないフェミニズム」が作り上げた、自由も倫理も性愛もない、女人国家ウラミズモ。日本から亡命したブス・デブ・中年の女性作家が、新国家のための建国神話を妄想のままに書き上げていく。 ところがウラミズモの実態は、作…

ニューヨーク地下共和国(梁石日)

これは壮絶な失敗作ですね。でもインパクトはある。小さくまとまって、何も訴えてこない小説よりはずっとマシ。 作者の梁石日は、9.11を目撃してショックを受けたそうです。それに、直後の株式暴落を予測したかのような荒稼ぎをした者がいたという事実を…

ラビリンス(ケイト・モス)

12世紀の南仏で一大勢力となったものの、異端のレッテルを張られ、同じキリスト教徒のアルビジョア十字軍に惨殺された「カタリ派」は、『薔薇の名前(ウンベルト・エーコ)』に登場していました。最近では『オクシタニア(佐藤賢一)』が、このテーマを扱…

木曜日の朝、いつものカフェで(デビー・マコーマー)

世代の異なる4人の女性の間に結ばれた友情の物語。それぞれ、みんな自分の人生の曲がり角で悩んでいます。 夫を亡くし孤独な日々を送る病院事務局長リズは57歳。年下の小児科医に惹かれてしまった自分の心に戸惑っています。離婚した夫を許せないクレアは…

チルドレン(伊坂幸太郎)

この作品は、伊坂さんの作風の転換点にあるのかもしれません。ストレートに「正義」を追究していた感のある初期の作品から、『魔王』や『終末のフール』のような変化球に変わる過程の・・。 本書の主人公・陣内は、いわば現代のトリックスター。とんでもなく…

シャッターアイランド(デニス・ルヘイン)

ボストン沖の孤島にある、精神を病んだ犯罪者のための病院。行方不明となった女性患者の捜索に派遣された、連邦保安官。何かを訴えるかのような、女性患者が残した暗号メッセージ。何かを懸命に隠そうとしている、病院側の態度。 ここまで揃うと、ヤバイ病院…

テヘランでロリータを読む(アーザル・ナフィーシー)

読みたい本を読めるということは、何と幸せなことなのでしょう。 イスラム革命後のイラン。大学の同僚や教え子たちが次々と罷免され、拘留され、処刑される。監視社会の恐怖の中、精神の自由を求めて、禁じられた小説を読む。大学を追われた著者が開いていた…

文学賞メッタ斬り!リターンズ(豊崎由美、大森望)

両氏とも色々な文学賞の下読み委員、かつ書評家でもあって、本を読む目は確かであり「文学賞の裏話」にも通じています。「リターンズ」とあるように、続編ですが、ちょっと期待外れかな。前作では、諸々の文学賞の成り立ちや、受賞傾向などの説明もあって大…

あなたにもできる悪いこと(平安寿子)

この人の本、はじめてじゃないはずだけど、記憶に残ってない。読み流したんだろうし、読み流してもいい本だったのかも。この本は「日本のアン・タイラー」にしては、意表をついたピカレスク・ロマン・・といっても、スケールは小さい。 口先三寸で何でも売り…

経営戦略を問いなおす(三品和広)

いわゆる「お勉強の本」はここには書かないのですが、ちょっと面白かったので紹介しておきます。 「経営戦略」という言葉が、企業の中で大流行しているのですが、多くの企業では戦略と戦術を混同しているというのが著者の意見。たとえば「成長戦略」との言葉…

凍れる森(C・J・ボックス)

前作『沈黙の森』で、自然と家族を愛する猟区管理官ジョーを生み出した作者は、シリーズ化に踏み切ったようです。基底に流れるテーマは、あくまで「自然保護」なのですが、その本質は、不正が身に及んだときに自分と家族を守るために立ち上がるという、アメ…

小説のストラテジー(佐藤亜紀)

久々に、「芸術論」で感動しました。「小説を読む」ということが、こんなにも厳しいことなのか・・。 佐藤さんはまず、絵画や音楽の楽しみ方から語り始めます。べロネーゼの「カナの婚礼」を楽しみつくすには、奇跡的な色の配置や開放感をもたらす構図を理解…

ボーイズ・ビー(桂望実)

『県庁の星』や『Lady,Go』で一躍売れっ子になった桂さん。ブレイクする前の本書にも、すでに持ち味は十分出ています。 帯のコピーは「じんわりとあったかいジジイとガキの物語」。これだけで十分説明になっているかもしれません。偏屈な70歳の靴職…

顔に降りかかる雨(桐野夏生)

江戸川乱歩賞を受賞した桐野さんのメジャーデビュー作。本書の主人公である女流探偵「村野ミロ」を主人公にした作品はこの後何冊も書かれていくから、相当入れ込んでいるのでしょう。一説によると、「村野ミロ」のキャラは作者自身とのこと。 親友のノンフィ…