りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

奇跡の自転車(ロン・マクラーティ)

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43歳で独身。体重126キロで、頭髪も薄くなってきた。昼間は単調な仕事。夜は酒とタバコとジャンクフードの生活。そんな、完全に「負け組み中年」のスミシーの生活に変化が起こります。

両親が一度に交通事故で死亡した日に、20年以上消息を絶っていた姉の死亡通知が届き、いっぺんにひとりぼっちになってしまったのです。放心状態のスミシーは、実家のガレージで少年時代の自転車を見つけてふと漕ぎ出すのですが、それは、姉の眠るLAへ向けた大陸横断旅行の始まりになってしまいました。ひたすら自転車をこぎ続けるスミシーの心をよぎるのは、精神を病んで家を飛び出した姉・べサニーの思い出。スミシーを支えるのは、今も彼に心を寄せる、幼なじみのノーマ。

ある時はホームレスに、ある時は死を間近にした病人の遺産狙いに、ある時は子供を誘拐した犯人に間違われながらも、いっさい弁解しないスミシーに対して、アメリカという国が心を開いてくれる。牧師が、エイズ患者が、新しい生活を築こうとしている夫婦が、トラックの運転手が、スミシーに語りかける、彼ら自身の物語。それは皆、何かを抱えながらも生きていかなくてはならない、優しくて残酷な国、アメリカの断片。

この後、スミシーは、自分の人生をやり直すことになるのでしょう。多くのものを失い続け、あきらめ続けてきた、冴えない中年男に起きた気持ちの変化は、もちろん奇跡の名に値するのです。自転車をこぎ続けた結果、体重も減りましたしね。^^

この本、スティーブン・キングが偶然聞いたオーディオ・ブックに感動してコラムで絶賛したことによって、刊行されるに至ったということです。作者にもまた、奇跡が起きたんですね。

2007/2