りぼんの読書ノート

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アリアドネの弾丸(海堂尊)

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今や「超売れっ子作家」となった海堂さんはさまざまなシリーズを書いていますが、本書はデビュー作チーム・バチスタの栄光の直系の作品です。

MRIやCTなどの医療器具を死亡判断に用いることによって「死因不明社会」の変革をもくろむ医療側と、警察・検察主導の解剖に固執する司法側の対立の矢面に心ならずも立ってしまったのは、あの「昼行灯」の田口先生。新しく設立される「画像診断センター」のセンター長となってしまったのです。

もちろん彼の役割は単なる緩衝材。各葉の妥協の産物にほかなりません。ところがそこで大物警視庁OBの副センター長が射殺されるという、とんでもない事件が起きてしまいます。容疑者は、あろうことか高階病院長。そこで登場するのが、あの厚労省のはぐれ者「火食い鳥」白鳥。果たして「田口・白鳥コンビ」は警察が仕掛けた罠をかいくぐって、事件の真相にたどりつけるのでしょうか・・。

金属が使えないほど強力な磁力を発する新型MRIが設置された室内での銃殺とのトリックが、ミステリとして優れているかどうかは判断できませんし、ここまで卑劣な「犯罪」を警察が自ら行なうというのはリアリティーに欠けるのでしょうが、「読み物」としては面白く仕上がっています。

それにしても、死因不明社会、緊急医療体制、僻地医療問題、産婦人科医の受難、司法との対立など、現代日本の医療体制には問題山積みなんですね。警鐘を発し続ける著者の姿勢には感心しますが、現実をどのように変えていくのか、難しいところです。

2011/2