りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

あなたのTシャツはどこから来たのか?(ピエトラ・リボリ)

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あなたのTシャツから世界政治・経済・歴史が見えてくる!? 2005年の「全米最優秀学術書」に選ばれた本です。

私たちの着ているTシャツは、グローバルな自由市場経済体制のもとで中国の貧しい女工を搾取することによって、生産されたものなのでしょうか。現代の世界の姿は本当にグローバルな自由経済がもたらしたものであり、世界企業とそれへの反発がせめぎあう時代との認識は正しいのでしょうか。気鋭の経済学者が、テキサスの綿農園、中国の繊維工場、アメリカの輸入制度、さらに古着の回収と流通過程を徹底調査して見えてきたのは、意外なことに、グローバル化された自由経済のイメージとは程遠い、政治の世界でした・・。

たとえば、アメリカの綿農園。南部の奴隷制の昔から200年に渡って世界市場で勝ち続けてきた理由は、市場経済原理に基づく自由競争を徹底的に排除してきたことにありました。綿繰機や耕作機を発明して労働集約型から資本集約型へ、さらには収穫予測、天候調整、品種改良などの技術集約型へと変身を繰り返すことによって他を圧し続けた結果が今の姿であり、政府補助金は比較優位の一因にすぎません。なぜ他国ではそれができないのでしょうか?

たとえば、中国の繊維工場。最大の繊維消費国であるアメリカ国内の製造業者が、政府に輸入制限圧力をかけ続けた結果が、日本、香港、台湾、東南アジア、そして中国へと工場が移ることによって、その国の工業化とテイクオフを促していったという事実。もちろん中国の繊維工場は女工哀史の世界だけれど、彼女たちは農村から脱出でき、ささやかながらも賃金と自由を得て、市民としての意識を高めているのです。いちがいに「悪」とは決め付けられないのでしょう。

最後に、古着の国際市場の存在。綿花からTシャツまでは、政府の規制や介入が大きいのに、古着の市場だけ完全にグローバルな市場経済になっているというのは、なんとも皮肉。アメリカの古着は、その大半がアフリカへ流れていくそうですよ。そして、日本にも!(日本で売れるものは、まさに古着の宝石だそうです)

本書があえて、一般的な経済理論を構築する目的には適していない「ものがたり形式」として叙述された理由は、はっきりしています。私たちが思い込んでいる、グローバル化に関する陳腐な固定観念を粉砕するには、「ものがたり」の持つ「破壊力」が必要だったのですね。

2007/1



(追記)
アメリカは、2005年1月に繊維製品輸入割当制を撤廃しましたが、中国からの輸入激増が予想をはるかに超え、再び輸入制限策を採るようです。本書での「割当制は、アメリカ国内の30万人の雇用を守るというより、他の途上国で繊維産業に携わる1000万人の雇用を守ってきた」との主張は説得力あります。

アメリカで失業しても、トヨタウォルマートでの再雇用や、失業保険手当を期待できるのでしょうけれど、バングラデシュカンボジアや西アフリカ諸国で職を失ったら、人生は終わってしまうのかもしれないのですから・・。