りぼんの読書ノート

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接触(クレア・ノース)

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まだ32歳の若さながら3つのペンネームを使い分けて多くの作品を著している著者が、SF用の「クレア・ノース」名を用いた2作目の作品です。前作のハリー・オーガスト、15回目の人生は、完全な記憶を有したまま同じ人生を再開できる特異者の物語でしたが、本書は、接触した相手に乗り移って長い年月を生き延びている「ゴースト」と呼ばれる存在の物語。

語り手はケプラーと名乗るゴーストであり、物語は、彼が身体を借りていた女性がイスタンブールの人混みで狙撃されたところから始まります。ケプラーはとっさに狙撃犯の身体を乗っ取って逃亡したものの、なぜ自分が狙われているのか、しかも宿主まで殺されなくてはいけないのか、理解できません。ケプラーは、長い過去を思い返しながら、手がかりを探って行きます。

どうやらゴーストの存在を知る少数者はどの時代にも存在しており、ケプラー自身、異端審問者集団に狙われたこともあるのですが、今回の敵は異なっていそうです。やがて、ケプラーに恨みを抱いているガリレオというゴーストの存在が浮かび上がってくるのですが・・。

ゴーストといえども、他の人間に接触する前に宿主が殺害されてしまっては、生き延びることはできません。それを妨害しようとするゴーストハンターたちとの闘いは、なかなかスリリング。しかし本書で印象的なのは、ゴーストであるケプラーが何を求めて生き続けているのかという、存在の根源に関わるテーマです。臆面もなく言い切ってしまうと、それは愛であり、愛を営むことから生まれてくるエピソードの積み重ねが大切なのです。

他の2つのペンネームは、学生時代から書き綴っていたヤングアダルト用と、成人向けのファンタジー用とのこと。「クレア・ノース」というのはSF用とのことですが、既読の2冊とも相当にファンタジー寄りですね。いずれにしても、奇想が楽しく、今後の作品も期待できる若い作家でることには間違いないでしょう。

2018/7