りぼんの読書ノート

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赤い天幕(アニータ・ディアマント)

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旧約聖書においてアダムから数えて12代目の部族長ヤコブは、伯父ラバンの娘である4姉妹を妻とし、「イスラエル12部族」の祖となる12人の息子と、1人の娘ディナをもうけた人物です。男性中心に記述されている聖書では、ヤコブと息子たちの関係が詳しく語られていくのですが、著者はディナを視点人物に据えて、女性たちの「忘れられた物語」を紡ぎ出していきます。

まずは、第1部の「母たちの物語」が素晴らしい。長女で男勝りのレア、美貌で奔放なラケル、信仰心の篤いビルハ、鋭い感性を持つジルパという4姉妹が、1人の男性を共有するという不自然な関係の中で巻き起こる嫉妬や葛藤の末に和解に至る過程が見事に描かれます。それぞれ自立した女性たちの、しなやかな生き方は感動的です。

第2部の「わたしの物語」では、成人後のディナを襲ったむごい運命が描かれます。シケムの王子シャレムと結婚したものの、粗暴な兄シメオンとレビに夫を惨殺され、失意の中でエジプトへ。この時点で4人の母たちはそれぞれに退場。そして第3部の「エジプト」では、異国にて女手ひとつで子育てをする中で、ついに自分が進むべき道と真の愛を見つけたかに思えたのですが、思わぬ人物が彼女の前に現れるのです。

旧約聖書に詳しい方であれば、兄たちに売り飛ばされたヨセフがエジプトで宰相となり、最終的には父や兄とも和解して一族をエジプトに移住させたことはご存じでしょう。ディナの運命がどのようにして一族と再び交差していくのか。著者の仕掛けも見事です。

タイトルの「赤い天幕」は、女性たちが出産や月経時にすごす男子禁制の場所のこと。母たちの一人であるラケルの後を継いでディナも助産師となるのですが、「女性たちの物語」は「赤い天幕」の中で伝えられていくのです。

2018/5