りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

愛に乱暴(吉田修一)

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幸福な結婚生活をおくっていたはずの主婦・初瀬桃子の人生が、結婚8年目にして狂い始めます。きっかけは桃子の理解者であった義父の宗一郎が脳梗塞で倒れたことでした。さらに、うろたえるばかりの義母・照子を手伝って疲れ果てたところにかかってきた1本の無言電話は、夫・真守の不倫を疑わせるものだったのです。

実は夫が不倫していることは、早い段階で読者には知らされています。妻・桃子との間には子供ができなかったのですが、不倫相手は妊娠した模様。もちろん優柔不断な夫が一番悪いのですが、中盤までは夫の選択は不明なまま。不倫相手の女性も不安な日々を過ごしているのですが、桃子は自分で自分を追い込んで行ってしまうのです。

不倫相手との直談判を試みて不審者のような行動をとったり、床下に忍び込んで母屋に住む義母と夫との会話を盗み聞きしたり、発作的な行動を連発するようでは、夫を相手に追いやるようなもの。しかし夫も義母も敵に回して、誰にも相談することもできず、独善的な自尊心と自問自答するような生活を続けていれば、精神に変調をきたしても不思議ではありません。

本書は、各章の冒頭に不倫相手の女性の日記を配し、三人称で日々の展開を記述した後に、桃子の日記で閉じるという構成を採っているのですが、実はそこにも仕掛けがありました。桃子の過去や、桃子が知ることになる夫の祖父母時代の不遇の女性の話は、桃子の精神状態の変化に至る伏線だったのです。

「人との繋がり」で追い込まれていく桃子が、「人との繋がり」によって救われるかのようなラストまで、サスペンスドラマのように濃密な展開の作品でした。

2018/5