りぼんの読書ノート

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アルヴァとイルヴァ(エドワード・ケアリー)

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舞台となるエントラーラの町は、ナポレオンに関するエピソードがあるものの、パリを外国と言っている場面もあるので、おそらく地中海沿いの架空の国の架空の町なのでしょう。中世の砦跡、大聖堂、中央駅、大学、歌劇場、美術館、動物園などもあるので、それなりの歴史と規模を持つ町と思われますが、うら寂しい雰囲気に満ちています。

本書は「町を救った双子の姉妹」であるアルヴァとイルヴァの人生を、アルヴァが書き残した手記をもとにして、姉妹と交流があったアウグストゥスヒルクスという男性が纏めたという形式をとっています。では、この双子の姉妹とはどのような人生を歩み、どのようにして町を救ったのでしょう。

郵便局長の孫娘として生まれた双子は、出産の日に父を亡くした寡婦の娘として、地味で内気な姉妹として育っていきます。思春期まではほとんど一心同体であったものの、やがて姉のアルヴァは広い世界を夢見るようになり、妹のイルヴァは家の中に引きこもって行きます。しかし2人がともに情熱を傾けたのは、プラスティック粘土で町の模型を精密に作り続けることだったのです。そして、エントラーラの町が大地震で崩壊する時が訪れます。

本書で描かれるのは、主人公である双子姉妹を中心とする人々の「町との関わり」ですね。通常は成長と共に活動範囲を広げていく普通の人物と異なり、引きこもりだったイルヴァはもちろん、世界を夢見たアルヴァすら一度も町の外に出ることはなかったのです。まだ町の外を知る前の少年少女時代の気持ちを思い出させてくれる作品でした。架空の町の地図だけでなく、ひとつひとつの建物まで粘土で制作してしまった著者の世界は独特であり、執念すら感じられます。

2018/4