りぼんの読書ノート

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神秘大通り(ジョン・アーヴィング)

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メキシコのゴミ捨て場で育ちアメリカに移住して作家となったフワン・ディエゴの、フィリピンへの感傷旅行は何を目的にしたものなのでしょう。いつしか道連れになった不思議な美人母娘に翻弄されながら、少年時代の記憶を呼び起こしていく主人公の旅が行きつく先は、どこだったのでしょうか。

読者は、老境にさしかかった作家の過去が、いくつもの死に包まれていたことを知らされていきます。飯しこの安ホテルで孤独に死んだアメリカ人の従軍拒否青年。邪悪な聖母マリアの逆鱗に触れて墜落死した、教会の掃除婦と娼婦を兼ねていた母親。読心力と予知能力を持ちながら、兄のフワン以外には理解できない言葉を話す妹のルペは、兄の運命を変えるためにサーカスのライオンに殺されていました。そしてフアンをアメリカへと連れ出した心優しい修道士のエドワルドと男娼のフローラは、エイズで亡くなっていたのです。

繰り返し現れるモチーフは、メキシコの聖女グアダルーペを従えているような聖母マリアのイメージです。タイトルになっている「神秘大通り」とはグアダルーペを祀る教会への世俗にまみれた参道であり、旅の道連れとなった母娘もまた、2人の聖女を連想させます。

人生において悲劇は避けられず、誰もが悲劇に耐えられるほど強くはなく、それでも続いていく人生とは「神秘大通り」のようなものなのでしょうか。世俗的な通りを進むパレードの先にあるものは、決して神聖なものでも素晴らしいものでもないと予感しながらも、群衆と共に歩き続けなければならないのでしょうか。

熊とレスリングこそ登場しませんでしたが、これまで著者が使ってきた家族、孤児、堕胎、宗教、サーカス、障碍、差別などのモチーフを散りばめつつ、運命と衝突する人々を描いた作品は、やはり読者の心に強く響いてくるものでした。

2018/2