りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2017/8 「日本文学全集9」平家物語(古川日出男訳)

8月の1位には、古川日出男さんの新訳による『平家物語』を選びました。古川さん独特の「ボイス」が、源平合戦の軍記部分の疾走感にも、滅びゆく者たちへの鎮魂部分の哀悼感にも、見事に嵌っていたと思います。素晴らしい人選でした。

3位にあげた加納朋子さんの『我ら荒野の七重奏(セプテット)』は、『七人の敵がいる』の続編です。読んでいて元気が出てくる作品です。
1.「日本文学全集9」平家物語古川日出男訳)] (1)(2)(3)
「敬語を含めて一文も刈り込まず、煩雑に見える故事の挿話も訳し落とさなかった」と言う古川氏の新訳は、「語り手」の存在を前面に押し出して、ともすれば冗長になりがちな長い物語に、新たな息吹を吹き込んでくれました。平家物語を貫く無常観が、琵琶法師の撥が弾む中で、高らかに唄い上げられています。

2.五月の雪(クセニヤ・メルニク)
オホーツク海に面したロシアの町マガダンには、かつて強制収容所が置かれていたとのこと。1983年にマガダンで生まれ、15歳のとき家族と共にアラスカに移住し、現在はロサンゼルスに在住する著者が、ベーリング海峡を挟んでシベリアとアラスカにまたがる家族の歴史を、紡ぎあげていきます。ジュンパ・ラヒリ、イーユン・リー、ジュノ・ディアスら、著者の上の世代である移民作家たちの系譜に連なる作品です。

3.我ら荒野の七重奏(加納朋子)
中学生になった息子が入ったのは吹奏楽部。「保護者会」の旧態依然たる不合理な運営方式に対して「ブルドーザー陽子」のパワーが炸裂します。前作を出版した直後に難病で入院した著者ですが、パワフルな陽子の奮闘ぶりを書いている間は、病気を忘れていられたとのこと。もちろん読者も元気を貰えます。「子育てという荒野」を行く陽子が、高校生となる息子と向き合っていく続編も期待しています。



2017/8/30