りぼんの読書ノート

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アロウズ・オブ・タイム(グレッグ・イーガン)

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空間的方向と時間的方向が「直交」しているため、超光速で宇宙空間を航行するロケットが一種のタイムマシンとして機能する世界の危機を描いた「直交宇宙3部作」がついに完結しました。

第1部のクロックワーク・ロケットで生態系をまるごと乗せた超巨大宇宙船「孤絶」を打ち上げたヤルダらを第1世代とすると、第2部のエターナル・フレイム反物質を扱う技術を確立して母星の危機を救う目途をつけたカルラらは第4世代。この時代に母子出産が可能となって、社会的な変化も起きています。男性は不要になっていくようです。

そして本書では、第6世代のアガタらが「時の矢」を反転させて「孤絶」を帰還の途につける試みが描かれます。母星よりも宇宙船を守るべきとする反対派との闘いは、このシリーズとしてはサスペンス寄りの展開といえるでしょう。一方で「時の矢」に逆行する惑星エシリオへの着陸調査は、後に重要な意味を持ってきます。

もちろん「重要な新理論」も登場。詳細説明は省略しますが(というより理解不能ですが)、「直交宇宙における統一理論の発見」が「時間と重力の関係」を導き出し、「未来からのメッセージ」を受け取ることが可能になるというのです。直交宇宙はメビウスの輪のような有限性を持っていたのですね。用意周到な著者は、未来予測につきものの「決定論の打開策」に多くのページを割いていますが、まだ不可解な点も残されています。

そしてついに12世代後の子孫たちが、「孤絶」の出発後まだ数年しかたっていない母星に帰還。ヤルダの盟友だったエウセビオや養女ヴァレリアらが、未来から戻って来た同朋を迎え入れる場面は、感動的でした。もっともその感動には、難解な思考実験の上に成り立っている3部作を読み切ったという満足感も含まれているのかもしれません。

2017/7



【直交宇宙3部作】
クロックワーク・ロケット
エターナル・フレイム
アロウズ・オブ・タイム