りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

陰陽師 玉兎ノ巻(夢枕獏)

イメージ 1

連載開始から30年、第15巻目という節目の作品です。このシリーズを評するのに「偉大なるマンネリ」という言葉がよく使われますが、この水準を維持するだけでも大変なことです。

「邪蛇狂ひ」
100年生きた蛇、角を生やして蛟(みずち)になるそうです。そんな蛇の恨みを買うようなことをしてはいけません。

嫦娥の瓶」
身体の毛色の黒白の比率が日々変わっていくウサギは、月に棲む嫦娥の使いの「玉兎」でした。月の光を浴びて成長する竹で囲まれると出られなくなってしまうというのは、かぐや姫と同じなのでしょう。

「道満月下に独酌す」
芦屋道満が山中で宴をする相手は、この世のものではなさそうです。64年前に亡くなったという女性と道満とは、どのような関係だったのでしょう。その物語もいずれ書かれるかもしれませんね。

「輪潜り観音」
孤独な姫に向かって、細い輪を首から潜るように勧めるものは、観音様ではなさそうです。博雅がかけた優しい言葉が、鬼女を成仏させます。

「魃の雨」
瞼のない大きな目玉を頭の上に持っている「魃」は、雨が目に入るのを防げないんですね。頭の烏帽子を失うと、雨を嫌って日照りの害をもたらすそうです。

「月盗人」
侘び住まいの姫に看病されることになった旅の男の病が治らないのは、悲しい理由によるものでした。道満も晴明も、真相を明かすことをためらってしまいます。

「木犀月」
博雅の笛と蝉丸の琵琶の音に誘われて現れたのは、中国の伝説で、月にあって木犀の木を永遠に切り倒し続ける罰を受けているという呉剛でした。中国版「シーシュポス」ですね。

「水化粧」
水に映した顔を描きかえると本人の顔も変化するという白狐の筆を用いすぎて、元の顔を忘れてしまってはいけません。筆がなくても鬼には成れるのです。

「鬼瓢箪」
貴人に取り憑かせた異国の鬼を祓って褒美をもらうというのは姑息な技ですが、こんなのに狙われたらたまりません。

2017/7