りぼんの読書ノート

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説教節(伊藤比呂美訳)日本文学全集10

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説経節」とは、唱導師による「語りもの芸能」のこと。後年には三味線の伴奏や、操り人形を用いる形式もあったといいますから、浄瑠璃の先駆けだったのでしょう。、『かるかや』、『山椒大夫』、『小栗判官』、『俊徳丸』、『法蔵比丘』を「五説経」というそうですが、唯一正本が残っているという『かるかや』が紹介されています。

前半は、若くして世の無常を感じ、領地も妻子も投げ打って出家した苅萱道心の物語。しかし、後半の息子・石道丸が父親を訪ねてくる物語のほうがメインですね。一度は父親に出会いながらも、それと知らずに戻った石道丸の母と妹は、それぞれ長旅と心労で亡くなっていました。再び高野山に登った石道丸は、互いに親子の名乗りを上げることのない父親とともに、仏に仕えるのです。

この物語を訳した伊藤比呂美さんは、「男はみな餓鬼阿弥である」と言い放ちます。常に何かを求め続けて、身近にあるものを顧みない存在だというのでしょう。苅萱道心も、ペール・ギュントも、「父帰る」の黒田も、夢を追って甲斐性ない男どもの類なのですね。

2017/2