りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

軋む心(ドナル・ライアン)

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アイルランドで雇用問題を専門にしていた弁護士が、三年間休職して書き上げた作品です。個人で出版社に持ち込んで47回も断られた末にようやく出版された本書は、2012年のアイルランド最優秀図書に選出されました。

2008年のリーマン・ショックで経済破綻したアイルランドの田舎町を舞台にして、21人の語り手の独白が紡ぎ出していくものは何なのでしょう。帯には「老人殺害と幼児誘拐」というショッキングな言葉が綴られていますが、それは主要な物語ではありませんでした。

地元の建設会社がバブルで踊らされた末に破綻し、杜撰な経営をしていた若社長が失踪。それぞれに閉塞感と焦燥感を抱える住民たちが、自らの思いを語っていくという構成。ダメ社長に騙されたことを自嘲すると同時に、偏屈な自分の父親を憎んでいる職長。茫然とする非正規の外国人労働者。ダメ息子を社長の座に据えたことを後悔する父親。欠陥住宅を買わされたことを怒るシングルマザー。そんな中でも浮気をして酒場に通う男たち。無責任なうわさ話を好む住民たち・・。

正直言って21人もの登場人物の全員が必要だったとも思えませんし、あちこちで横道に入り込む物語には読者を混乱させる部分も少なくありません。「老人殺害と幼児誘拐」の必要性だって、疑問符がつくのです。それでも全部を読み通すと、無骨な力強さを感じる作品でした。

映画化されたブルックリンで、主人公の女性がアイルランドを去る決意に至る理由を思い浮かべながら読みました。

2016/9