りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

パステル都市(M・ジョン・ハリスン)

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風の谷のナウシカの種本のひとつと言われる作品です。

確かに共通点は多いのです。滅び去った古代文明の遺産にすがりながら生き延びようとする帝国。古代文明が遺した兵器(エネルギー剣、飛行艇、不死人・・)を「錆の砂漠」から発掘して、帝国に襲いかかる北方蛮族国家。亡国の若き女王メスヴェン、蛮人を率いる偽女王モイダート、厭世的生活から立ち戻る騎士クロミス、旧友トリノアの裏切り、古代の知識を伝える古き塔の主セルル・・。まさに「滅亡」の香り漂う「由緒正しきヒロイック・ファンタジー」。

もちろん『ナウシカ』は、バックグラウンドの設定だけの作品ではありません。「私こそが唯一の希望なのだ」と宣言する墓所の主に対して、「違う!命は闇にまたたく光だ!」と、ナウシカに断言させるクライマックスなどは、本書の世界観からは大きく隔たったところにあるのですから。

とはいえ、独特の世界観を早くも1970年代に提示した本書が、名作であることに変わりはありません。現代のSF作家なら最低でも三部作くらいにはするであろう内容を、わずか250ページで綴りきった「密度の濃さ」も素晴らしいのです。

2015/1