りぼんの読書ノート

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ノンちゃん雲に乗る(石井桃子)

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石井桃子さんについての本格的評伝であるひみつの王国(尾崎真理子)を読み、石井さんの代表作である本書を再読してみました。

物語はシンプルです。主人公のノンちゃんは、お母さんのことが大好きな小学校2年生。ある朝、お母さんとお兄ちゃんが自分に内緒で東京に出かけてしまったことが悲しくて、大泣きしながら家を飛び出します。神社の境内にある木に登ったノンちゃんは、池に落ちたと思ったら空に落ちてしまうのですが、雲に乗ったおじいさんに助けられ、求められるままに家族と自分の話をするのでした。

よくできた物語です。赤痢に罹って生死の境をさまよったことがあるノンちゃんは、もともと「別世界」に近いところにいたと理解できます。「大泣き」したことが「別世界」への扉を開けてしまったのでしょう。「池に映った空に落ちる」という、落下と浮揚をミックスした感覚もまた、「別世界」をうまく捉えているようです。この作品は「ファンタジー」としても優れているんですね。

物語的には、「ノンちゃんが優等生である」ことがポイントになっています。家族にウソをつかれたことが許せなくて「大泣きする」というのは、相手を責める行為にほかありません。。兄ちゃんが「ダメダメなのに意地悪」というのも、自分の無謬性を信じているから言えること。雲の上のおじいさんは、優等生であることの問題点を、やんわりとノンちゃんに気付かせます。

しかし本書の本当の凄さは、そのあとにあるのでしょう。優等生であることをやめて「ウソをつけば家に帰れる」というおじいさんに対して、「あたしが、うそをきらいなんだア」と、来た時よりも大泣きするノンちゃん。でも彼女は、そのまま家に帰れます。何をどう言われても譲れない気持ちを持っていることが、最後には強い個性として許容されるんですね。そして、誰も信じてくれない物語を抱えながら、ノンちゃんは大人になり、戦争を生き延びて医者になるのです。

本書をあらためて読み返してみると、「ちびまる子ちゃん」との共通点の多さに気づきます。まる子は決して優等生ではなく、むしろ三枚目なのですが、ノンちゃんとの差は「時代の要請の違い」でしかないように思えてしまいます。

2015/1再読