りぼんの読書ノート

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硝子の葦(桜木紫乃)

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氷平線凍原などで、北の国に生きる女たちの壮絶な生きざまを描いてきた著者の作品の中でも、本書の主人公・幸田節子の生き方はとりわけ強烈です。ふしだらな母を愛人として囲った男・幸田喜一郎と高校時代に関係を持ち、後には結婚。しかも勤め先だった会計事務所の所長・澤木とは、結婚前も後も関係が続いているというのですから。

物語は幸田節子の壮絶な焼死から始まり、本書は彼女の「死」の直前の数ヶ月間を描いていきます。ラブホテルを経営していた夫・喜一郎は、末期癌で余命半年を宣告された後に交通事故を起こして植物人間状態に。彼の事故は自殺なのか、事故の直前にどこに出かけていたのか。

一方で、節子が短歌会で知り合った一見幸福そうな妻・佐野倫子との関係は何だったのか。倫子の娘が誘拐されて夫が自殺した事件とは何だったのか。節子を忘れきれない澤木は、倫子が引っ越した先の帯広へと向かうのですが・・。

節子も倫子も、さらには倫子の小さな娘・まゆみも「怪物」です。しかし彼女たちを「怪物」に変貌させてしまったのは運命なのか、弱い男たちなのか。著者の他の作品と同様、本書でもかなりハイレベルのダメンズが登場しますが、やはり極限状況に強いのは女性なのでしょうか。

最後に、本書のタイトルともなっている、節子が自費出版したという句集からの一句を紹介しておきましょう。「湿原に凛と硝子の葦立ちて 洞(うつろ)さらさら砂流れたり」

2013/8