りぼんの読書ノート

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黒王妃(佐藤賢一)

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主人公のカトリーヌ・ド・メディシスは、フランス王アンリ2世の妻というより、ヴァロア朝の最後に相次いで即位した3兄弟(フランソワ2世、シャルル9世、アンリ3世)の治世に母后として摂政を務め、「サン・バルテルミの虐殺」を引き起こしてフランス宗教戦争を激化させた責任者として悪名も高い人物です。

本書は「サン・バルテルミの虐殺」が、フィレンツェメディチ家から嫁いできたカトリーヌの、いかにもイタリア風の母親らしい「家族を守る」感覚によってひきおこされたという解釈を打ち出しているようです。もともと宗教的には寛容で旧教と新教の宥和政策を取り続けてきたカトリーヌを爆発させたのは、息子シャルル9世を守るためだったというのです。

各章の後半に綴られるカトリーヌのモノローグは、フランスに嫁いできてから夫の死までの回想です。夫の愛妾ディアーヌ・ド・ポワチエとの関係に苦しめられながら、息子たちを産んで勝者となった喜びを覚えたのもつかの間、夫の不慮の死に襲われます。悲嘆にくれたカトリーヌの中では、フランス王室を守ることは家族を守ることと同義だったのでしょう。

しかし、その家族が問題でした。フランソワ2世は早世し、王位についていたシャルル9世はユグノーの盟主コリニー提督を父と慕うようになり、最愛の末子アンリは男色家だというのです。しかもそこに、兄たちと近親相姦関係にあったという娘マルゴーも加わるのですから、ナヴァール王となったブルボン家のアンリとマルゴーの挙式の直前に、家族の秘密を全て知らされたカトリーヌが爆発したくなった気持ちもわかろうというものです。

やはり「女に政治をさせてはいけない」ということでしょうか。でも同時代にイングランドを繁栄させた「処女王エリザベス」もいることですし、「政治と家族を混同してはいけない」というあたりまえの教訓が結論なのかも・・。個人的にはこの時代を混迷させた最大の責任は頑迷なカトリック側に、とりわけフランスではギーズ公親子にあると思うのですが。

2013/3