りぼんの読書ノート

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強力伝・孤島(新田次郎)

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日経新聞の文学作品の故地を訪ねるシリーズ・コラムで、「強力伝」で金時と呼ばれた主人公の娘さんが存命であることが紹介されていました。通称「金時娘」の妙子さん(小説では鶴子)は、今も元気で金時茶屋の看板娘(?)だそうです。

表題作は、白馬山頂に50貫目(約180kg)の風景指示板を運び上げる仕事を引き受けた富士山の伝説的な強力・小宮の死闘を描いた、簡潔で力強い作品です。かつての恩人である小宮を無謀な仕事から引きとめようとする気象学者の心情や、はじめは小宮に反感を抱きながら彼を尊敬して協力する信濃の強力との交情が、作品を豊かなものとしています。

主人公・小宮のモデルは実在の強力であった小見山正氏であり、この仕事で体調を崩したことが原因で亡くなられたとのこと。作中に登場する気象学者は、富士山観測所勤務時代に小見宮氏と親しくしていた著者の分身ですね。

他には、後に長編としてリライトされた八甲田山、富士山頂観測所の建設に生涯を捧げた一技師の物語である「凍傷」、太平洋上の離島で孤独に耐えながら気象観測に励む人びとを描く「孤島」、山犬と同じ穴に落ちた男の壮絶な一夜を描いた「おとし穴」、娘の敵として山犬退治に生涯を書けた男の物語をフォークロア的に描いた「山犬物語」が収録されています。

2012/9