りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

悪魔の薔薇(タニス・リー)

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「現代のシャハラザード」の異名を持つ著者の作品は、ダーク・ファンタジーやロマン・ホラーに分類されるようですが、一読した印象は「耽美的な御伽噺」? 全9編からなる短編集です。

「別離」女性ヴァンパイアに仕える老いた従者は、自らの死期を悟って後継者を探し出します。彼の頭をよぎるのは、女主人に仕えた幸福感と別離の哀しみ・・。従者が秘めていた女主人への愛情もまた、後継者に引き継がれていくのでしょう。

「悪魔の薔薇」旅人が雪に降り込められた街で出会った「悪魔に魅入られた女」と恋に落ちるのですが・・。幻想譚と思わせて現実的で残酷な結末が待っています。

「彼女は三(死の女神)」20世紀前半のパリを舞台にして詩人・画家・音楽家の3人の芸術家が死神に取り憑かれてしまいます。画家のモデルはモヂリアーニ?

「美女は野獣」「暗殺の天使」と呼ばれた美女シャルロット・コルデーによるマーラー暗殺をモチーフとした作品です。国に災厄をもたらしている野獣姿の暴君を殺害した美女でしたが、正義と美しさはどちらの側にあったのでしょう?

「魔女のふたりの恋人」恋した女性がその男を呼び寄せる魔法をかけるのですが、魔法の効力を保つために別の男を好きになったふりをします。しかし誤解から悲劇が起こった時、女は自分の本当の気持ちに気づきます。恋する女は誰もが魔法使い。でも、恋の魔法などかけるものではありませんね。

「黄金変成」ローマ帝国はすでに滅び、辺境軍が割拠独立した国家の権力者が、異国の女を娶って息子が生まれます。錬金術をあやつるという女を疑っていた権力者の幼馴染みの男は、女が息子に怪しい業をかけるのを防ぐのですが・・。

「愚者、悪者、やさしい賢者」父の跡を継いだ3人兄弟が魔術師と関わりますが、幸福を手に入れたのは誰だったのでしょうか、魔術あり、精霊(ジン)あり、美女ありの、ストレートなアラビアン・ナイト風お伽噺です。

「蜃気楼と女呪者」村の美しい男を連れ去り鏡を使って廃人にしてしまう魔女。でも、魔女の呪いにかかるのはナルシストばかりですね。魔女を打ち負かす者は魔女を愛する者なのでしょうか。その時魔女は、普通の女になってしまうのかも・・。

「青い壺の幽霊」決して靡こうとしないタカビーな女に愛を捧げる魔道師が、七千もの魂を封印する壺の中に、女の魂を閉じ込めてしまおうとするのですが・・。意外なことに純愛物語でした。魔道師にとっても、女にとっても。

2011/10