まずは、巻末の著者の言葉を、そのまま引用しておきましょう。「父親が精神を病んでいたので、そういう精神状態にいる人やその家族の気持ちを理解できるし、ぼく自身がゲイなのでゲイの男性が作品に登場するが、精神の病いやゲイをテーマに小説を書いたのではない」
私の伝記作家へ:躁の時期にある73歳の父親の突飛な行動をとめようとするゲイの息子のやりきれない思いが描かれます。ほとんど実話なのかも・・。
名医:患者の話を聞きだす能力に自信をもつ青年医師が、電話で薬の処方を頼んでくる遠隔地の婦人を訪問しますが、彼女の悲しみは簡単に受け止められるようなものではなかったのです。
悲しみの始まり:母親が自殺、父親が交通事故死したために高齢の隣人宅に身を寄せた少年が、同級生の美少年に自分を傷つけられることに喜びを感じてしまいます。
献身的な愛:かつて同じ男性を愛してしまった姉と弟は、結婚もせずにずっと2人で暮らしたまま老いを迎えようとしています。そこにその男性からの電話が・・。ラストでちょっと救われたような気持ちになる作品。
戦いの終わり:精神を病んでいる男性と、それを知りながら結婚した女性。女性の重荷になっていることに耐えられず、旅先で自殺を試みる男性が出会ったのは、悲しい過去を持った1人暮らしの老婦人でした。
再会:不動産会社を辞めた男は、日が暮れたら公園でゲイの男性の誘いを待つ日々を繰り返しますが、彼に出会ったことで救われる思いをする女性もいたのです。しかし彼の生活は、徐々にエイズに呑み込まれていってしまいます。
予兆:11才の少年はラテン語教師の死を前日から予感していました。兄の死を予感するのですが、両親には信じてもらえず、もどかしい思いをします。ちょっと毛色の変わった作品ですが、これもまた父親と息子の物語です。
父の務め:自分を担当する精神科医が、別の担当医に宛てた手紙を読む青年。それは青年が他の患者にインタビューする様子が記録されていたのですが、やはり精神を病む父親もインタビュー相手として登場しています。息苦しくなる作品です。
ヴォランティア:ヴォランティアで精神病院に通う少年は、高齢の女性の入院患者と親しくなり、苦しい初恋の思いを聞いてもらうようになります。やがて少年に、初体験の時が訪れるのですが・・。
登場人物たちの悲しみや苦しみが、ストレートに伝わってくるような作品集でした。でもだからこそ、タイトルの言葉が効いてくるのでしょう。「You are not a stranger here (あなたはひとりぼっちじゃない)」
2011/3