りぼんの読書ノート

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天啓を受けた者ども(マルコス・アギニス)

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前作『マラーノの武勲』は、スペイン統治下の南米で猛威をふるった異端審問の実体を「被告」であったユダヤ教徒の立場から描いた作品でしたが、本書は現代社会において「天国の到来を声高に告げながら地獄を生み出している天啓を受けた者ども」の所業を暴き出す内容となっています。

そのひとりは、アメリカの片田舎の町に生まれた普通の少年ビル。預言者エリシャによって重篤脳炎から救い出されたと信じたビルは、アメリカ南部に白人至上主義のカルト宗教帝国を築き上げていきます。

もうひとりは、キューバからアメリカに亡命した軍人ウィルソン。ビルの妹ドロシーを妻としたウィルソンは、アルゼンチンの軍事政権の顧問となって、数多くの行方不明者を出した「汚い戦争=国家によるテロ行為」を指導して力を蓄え、民政化後は麻薬ビジネス帝国の支配者となるのです。

ビルとウィルソンの関係はそのままカルト教団と麻薬組織の癒着であり、アメリカへの大量麻薬密輸となっていきます。その秘密に挑んでいくのが、アルゼンチンの軍政下で両親と姉を虐殺された過去を持つダミアンなのですが、彼が愛する女性モニカはなんとウィルソンの養女だったのです。そして、彼女には出生の秘密がありました・・。

「正義」の名の下で人はどれだけ悪事を行なってきたのか。史実を絡めて南北アメリカの暗部を暴きだした、壮大なスケールの作品です。それだけでも十分な迫力なのですが、個性的な3組の男女の愛憎劇として描いたことが、本書の魅力を一段と増しているようです。

幼馴染みのビルと添い遂げたものの、夫の抑圧で生気を失ってしまったエヴェリン。ウィルソンの道具として用いられることに耐えられず、アルコールに逃避したドロシー。そして、義父の悪事を追うダミアンを愛してしまった「贖罪の子」モニカ。彼らの思いと運命が、驚愕の結末に向かって収斂していく展開も素晴らしいのです。読み応えのある「圧倒的な小説」でした。

2010/10