りぼんの読書ノート

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「悪」と戦う(高橋源一郎)

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これから世に出て行く幼い子どもたちには、どんな試練が待ち受けているのでしょう。親としては、さまざまな形で襲い掛かってくる「悪」と戦っていなかくてはならない我が子を、「悪」に負けないで欲しいと、ただ見守るしかないのでしょうか。そんな親の思いが詰まった小説です。

3歳児のランちゃんは公園で、大人の目からみると痛々しい少女ミアちゃんと出会います。彼女の顔のパーツはそれぞれ完璧に美しいのに、配置がちょっと歪んでいるのです。2人を見守る父親の心配をよそに、ランちゃんはミアちゃんを好きになったようです。でも、高熱を発して一時は生死の境を彷徨ったランちゃんは、不思議な夢を見るのです。マホさんというお姉さんが現れて、「悪」の手先であるミアちゃんと戦えというのですから。

ランちゃんは、さまざまな世界でさまざまなミアちゃんと出会います。みんなにいじめられて、窓から飛び降りようとするミアちゃん。車椅子に座ったまま、人類の罪を引き受けようとするミアちゃん。絶世の美女となって、男性を虐げるミアちゃん。

この本で言う「悪」は、わかりやすいものではありません。「悪」の手先としてミアちゃんを持ってきたことには、少々気持ち悪さも感じます。「世界」から退場してしまうことこそが「悪」であり、ミアちゃんが「世界」から消えてしまいそうな存在ということを前提としているように思える節がありますので。

ランちゃんを導くマホは、実は生まれなかった姉でした。「世界から何もしてもらえなかった」マホが、弟の「悪」との戦いを助けるという図式も、美しいのか、不気味なのか、よくわからなく思えてきます。

2010/9