りぼんの読書ノート

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黄金雛(今村翔吾)

江戸中期の火消たちの活躍を描く「羽州ぼろ鳶組シリーズ」の10作目ですが、本書の副題は「零巻」です。本編から20年近く遡って、シリーズの主人公・松永源吾をはじめとする「江戸火消の黄金世代」メンバーがまだ10代の新米だった頃の物語。若き火消たちに試練が襲いかかります。

 

16歳の新人火消・松永源吾は、同世代の俊英たちに強いライバル心を抱いていました。この世代には、江戸最大の加賀鳶の御曹司・大音勘九郎、最年少で火消頭になった進藤内記、い組の漣次、に組の辰一、よ組の秋仁らの町火消の新星たちなど、将来を期待される逸材が揃っていたのです。源吾はまた、英雄的な火消に憧れる一方で、父親・松永重内のことは冴えない火消として軽蔑していました。

 

そんな折、毒を吐く戦慄の炎が連続して発生。普通の火災と見分けがつかず、わずか一呼吸で人命を奪う毒煙からは、熟練の火消すら生還できずに犠牲者が増えるばかり。事態を重く見た重鎮たちは、江戸火消の未来を守るために若輩たちの出動を禁じます。当然、血気盛んな源吾らは収まりません。密かに内偵を進める中で浮かび上がってきたのは、3年前の大事件との因縁でした。当時最強を誇っていた尾張藩火消を全滅させた火災の背景には何があったのでしょう。

 

後に「火喰鳥」と呼ばれる松永源吾が火消羽織の裏地に鳳凰を入れたのには理由があったのですね。後に本編で活躍する面々がチラ見えするのも、楽しい趣向です。終章で源吾に命を救われた少女は、やはりあの女性でしょうか。本書のテーマは若き火消したちの成長と団結ですが、彼らに火消の生きざまを背中で教える親世代もカッコいい。源吾があらためて父親の偉大さに気付くラストも素敵です。

 

2024/7