りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

海神の島(池上永一)

死の床についたオバァの願いは、孫娘3姉妹の誰かに米軍基地内にあある海神の墓を守って欲しいということでした。はじめは墓守の義務を拒否したものの、広大な基地用地の地代収入が年間5億円を超えると知って目の色が変わります。相続者となる条件は、オバァの父親が戦争末期にどこかに隠した海神秘宝を発見すること。かくして、それぞれ切実に5億円を必要としている3姉妹の相続をめぐる闘いが開始されるのでした。

 

銀座の女帝となっていた長女の汀の願いは、銀座の象徴であるポルシェビルを買い取って、そこにクラブを開くこと。彼女は超一流のホステスたちを駆使して情報を入手、最終手段として頼った相手は中国海軍の高官でした。世界的な水中考古学者となっていた次女の泉の願いは、有人深海潜水艇を所有すること。綿密な調査の末にアメリカの研究財団を介して頼った相手は、アメリカ海軍でした。アイドルとしてデビューしながら地下世界に落ちていた3女の澪の願いは、起死回生の映画撮影。爆発的人気を得た台湾のTV局経由で、台湾海軍の協力を得ることに成功します。

 

中国、アメリカ、台湾の海軍まで巻き込んだ3姉妹の宝探しは、国際情勢に大きな影響を与えかねません。なんせ曾祖父が海神秘宝を隠した島とは、尖閣諸島魚釣島だったのですから。本書は冒頭部分から、基地問題という沖縄のタブーに挑戦しているのですが、最後には沖縄も日本も超えるタブー領域にまで踏み込んでしまいました。3姉妹のコミカルな争いと並行して、センチメンタリズム抜きで沖縄の暗部にまで踏み込んだ、著者渾身の作品です。

 

2023/3