りぼんの読書ノート

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旅は道づれきりきり舞い(諸田玲子)

稀代の奇人である十返舎一九を父に持つ舞を主人公に据えた『きりきり舞い』シリーズの第3弾。「東海道中膝栗毛」で大当たりを取った一九ですが、中風を患った後は全く書けない状態が続いています。版元から金を借りての大散財も限界なのですが、本人は全く気にしていない様子。一九の周辺に集まるメンバーも奇人揃い。絵を描くこと以外には興味を示さない北斎の娘で偏屈者のお栄も、転がり込んできます。もっとも舞だって、一九の押しかけ弟子となった無収入の今井尚武と結婚を決めたのだから、常人の感覚ではやっていけないのでしょう。

 

毎日唱える「奇人、気まぐれ、きりきり舞い」との奇人封じの呪文もいっこうに効き目がなく、舞と尚武の祝言もめちゃくちゃになってしまいます。その席に現れた見知らぬ老人はいったい何者なのでしょう。かと思えば一晩で五十両もの散財をして幼い息子を売るはめに陥ってしまったり、輿入れ前の姫様を預かる約束をしてしまったり、舞は相も変わらず、奇人変人たちが巻き起こす大騒動の後始末ばかり。

 

そんな中、奉公に出ていた舞の兄、市次郎が一九の故郷の駿河府中で自分の店を開くことになり、一九たちを招待。江戸から府中の東海道四十四里を一行は旅することになるのですが、どんな珍道中となるのでしょう。そして道中に現れた偽一九とはいったい何者なのでしょう。一九と偽一九は「東海道中膝栗毛」の芝居に役者として登場することになってしまうのですが・・。

 

一九の複雑な前半生から派生したエピソードで締めた本書は、単なる江戸人情物語の枠に収まってはいませんね。第2巻『相も変わらずきりきり舞い』で終わりかと思ったシリーズですが、今後も続いて欲しいものです。

 

2023/2