りぼんの読書ノート

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獅子の門7 人狼編(夢枕獏)

新たな総合格闘技大会の開催が決定。NKトーナメントで優勝した武林館の麻生や、若手の大会で優勝した室戸武志、ブラジリアン柔術の第一人者マリオに敗れて武者修行を繰り返してきたプロレスラーの赤石元一らの出場は決定していますが、それを不服とする鳴海と鹿久間はリザーブマッチへの出場権を獲得。本戦トーナメントの誰かが棄権した場合に出場権利を有することになります。誰もが実力者揃いである大会では、勝者も傷ついて次の試合を戦えないケースが想定されているのですね。

 

このシリーズはもともと志村礼二、室戸武志、加倉文平、武智完、芥菊千代という5人の少年たちが格闘家へと成長していく過程を描く構想だったようですが、既にそこから大きくはみ出してしまっています。少年たちを見出した放浪の太極拳の達人・羽柴彦六と、彼のライバルである最凶の男・久我重明の宿命の対決を描きたくなったことに加えて、現実世界での総合格闘技の興隆にも刺激を受けたことによるようです。まだ成長途上にある少年たちが主役の座を降りざるを得なかったのも仕方のないことでしょう。

 

この巻ではさらにもうひとり、興味ある格闘家が登場します。柔道の投げ技こそ最強と信じて疑わない岩神京太です。確かに床や壁がコンクリートや鉄柱であるなら、全てを投げることができる男が最強なのかもしれません。相手を転がせば剣で首を取れるルールであるなら、相撲の力士が最強と言えるのと同様に。本書の格闘シーンで反則技がたびたび登場するのは、ルールと観客に縛られた総合格闘技では計り得ないダークな部分があるためでしょうが、そんな中で美しい勝ち方に拘る男の登場はかえって新鮮でした。事実、岩上・鳴海戦は、このシリーズで最も魅力ある試合のひとつでした。

 

格闘家世界一を決定する頂上決戦の時が迫っています。そして羽柴と重明の対決の時も。

 

2022/11