りぼんの読書ノート

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大聖堂 下(ケン・フォレット)

12世紀イングランドの内乱時代に、当時最先端の大聖堂を建設する物語は佳境に入っていきます。クリアすべきは技術的問題だけではありません。数十年かかる建設期間の政治的・軍事的な安定や、石材や木材の手当てを含む費用の捻出も必要なのです。しかし最も重要なのは宗教的な熱意でしょうか。

 

愛するアリエナの結婚に絶望したジャックは、吟遊詩人だったという父親の面影を追ってスペインへ。しかしそれは無駄ではありませんでした。トレドでイスラムの科学を学び、パリのサン・ドニ大聖堂建設現場で働く経験を積んだことで、尖塔アーチという最先端の技術を身に着けることができたのです。やがて粗暴な夫に別れを告げ、ジャックとの間に生した幼い息子を連れて大陸に渡ったアリエナが、ジャックをイングランドに連れ戻します。

 

そのキングズブリッジでは、聖堂天井の崩落事故や飢饉による資金不足で、大聖堂の建設は危機に瀕していました。熱意の塊であったフィリップ修道院長も諦めの境地に陥ってしまっている始末。ジャックはフィリップと大聖堂を救うことができるのでしょうか。そして仇敵のシャーリング伯ウィリアムとウォールラン司教の企みにとどめを刺すことができるのでしょうか。前シャーリング伯の遺児アリエナとリチャードは旧領を回復できるのでしょうか。女帝モードはすでに亡く、それでいてイングランドを治めきれなかったスティーブン王は、モードの息子であるプランタジネット家のヘンリーを王位継承者とすることで和解が成立したのですが、政治的な動向が物語の展開に大きな影響を与えます。さらに15年後、大聖堂がついに完成しようとしている中で、王位についたヘンリー2世の意を汲んだトマス・ベケット大司教暗殺事件が起こるのですが・・。

 

すべての伏線が回収され、大団円へと至る物語は読み応え十分でした。しかし本書はこれで終わりません。英仏百年戦争とぺスト禍の14世紀を舞台とする第2シリーズ『大聖堂-果てしなき世界』と、エリザベス1世治下の16世紀を舞台とする第3シリーズ『火の柱』へと続いていくのです。さらに続編の構想もあるとのことですが、次の舞台はクロムウェル時代になるのでしょうか。それともフランス革命の時代になるのでしょうか。もはや「壮大」などという言葉では表現しきれないスケールの大きさです。

 

2022/9