中公新書が不定期に出版している「物語世界史シリーズ」は、それぞれの国に対する第一人者がさまざまな切り口で各国を紹介してくれるものであり、興味深い作品が多いのです。これまで10冊程度読んだでしょうか。本書では、ヨーロッパに中央に位置する永世中立国というユニークな国家スイスが、どのようにして出来上がったのかを解き明かしてくれています。
大半の国家が都市をベースとして建国への道を歩んだのと対照的に、スイスは田舎から生まれました。ローマ時代から中世にかけてチューリヒ、ベルン、バーゼル、ルツェルンなどの都市が成立していたものの、1291年にスイス国家の原型となった盟約者団のオリジナルメンバーは、ウーリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルデンという隣接する農村地帯。ドイツからイタリアへと抜ける峡谷ルート添いの共同体です。周辺勢力の利害が均衡する地域であったために可能であったようです。そこに周辺の都市や地域が次々と加わって、現在のスイスの原型ができていったとのこと。
さらに山岳戦に圧倒的な強さを発揮したスイス農村兵団は、領土を拡大していきます。フランスのブルゴーニュ伯国や北イタリアのサヴォア公国に勝利してジュネーブを含む西部に、ハプスブルク家に勝利してバーゼルを含む北部へろ進出。しかし経済的な発展に限界があったことで、名高いスイス傭兵が生み出されていきました。
その後もスイスは宗教戦争、フランス革命、ナポレオン戦争、20世紀に入っての2度の世界戦争と、ヨーロッパ全土を襲った試練に何度も巻き込まれましたが、一貫して永世中立という孤高の道を保ち続けました、その背景には、強固な軍事力に支えられた不羈独立の精神があったわけですね。州の自治権が強く中央集権化を嫌う多言語・多文化の連邦国家というと、アメリカ合衆国と似ているようにも思えますが、ヨーロッパ特有の周辺国家との関係や国家規模の差が、両者の行動様式の違いを生んでいるのでしょう。なかなか興味深いテーマでした。
2022/1