りぼんの読書ノート

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尼子姫十勇士(諸田玲子)

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真田幸村に仕えたとされるのが猿飛佐助や霧隠才蔵などの「真田十勇士」ですが、こちらは毛利に滅ぼされた尼子氏の残党が姫のもとに結集して出雲国奪還を目指す物語。総大将となる尼子傍系の勝久と、大将の山中鹿介は実在した人物ですが、それ以外は著者の創作なのでしょう。そもそも物語の中心人物である、尼子勝久の母親のスセリ姫という存在がフィクションなのです。

 

日御碕神社の巫女の娘だったスセリ姫を導くのは、身体に浮き出る八咫烏の形をしたアザ。尼子再興軍として集結してきたメンバーの男どもは尼子の旧臣や海賊や忍者ですが、女性たちは一味違う。岩見銀山の神楽舞の名手や、呪術師の猫女や、新熊野神社のシカや、傾城町の遊女など。そして毛利の手先として彼らの前に立ちふさがるのは、ヤマタノオロチ神話ゆかりの熊谷団の末裔。さらに物語のクライマックスの舞台となるのが黄泉比良坂へと続く猪目洞窟というのですから、もうこれは壮大な神話ファンタジー。やはり出雲という土地のなせるわざなのでしょう。

 

しかし尼子再興運動と、十勇士エピソードと、出雲神話を融合させたのは、力業に過ぎたように思います。最後はかなり訳の分からない世界に向かってしまいました。スセリ姫と山中鹿介が最後に演じた黄泉比良坂でのエピソードなどは、尼子再興との関連はあまりにも希薄なのです。1年間に渡って週刊誌に連載された小説ですが、構成が出来上がる前に書き始めてしまったのかもしれません。

 

2022/1