りぼんの読書ノート

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赤いモレスキンの女(アントワーヌ・ローラン)

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ミッテランの帽子』では失われた帽子が持ち主のもとに戻ってくるまでの2年間の間に、それを手にした人々の運命の変化を描いた著者ですが、本書もまた遺失物が関わる物語。モレスキンとは世界的に有名な手帳のことです。

 

パリで書店を営むローランは、離婚歴のある40代の男性。恋人との関係はうまくいっていませんが、作家を招いてのサイン会を開いたり、テレビで新刊書籍を紹介するなどの活動の成果もあって、書店の売上は好調です。そんなローランが散歩途中で見つけたのが、ゴミ箱の蓋の上に置かれていた美しいハンドバッグ。実はそのバッグは、前夜持ち主からひったくられ、現金を抜き取られて捨てられたものでした。

 

交番の警官から相手にされなかったローランは、持ち主を探し出すために、後ろめたさを感じながらもハンドバッグの中身を探りまます。そこで見出したのが、折に触れて思いが書き綴られて赤いモレスキンの手帳と、その他もろもろ雑多なもの。そして彼は、ハンドバッグの持ち主である見知らぬ女性に恋してしまうのです。はたして彼は持ち主を見つけ出せるのでしょうか。相手の女性はどのような人物なのでしょうか。そもそもハンドバッグの中身だけで関心を抱かれるなんて、女性は引いてしまわないのでしょうか。

 

なかなかよくできた「大人のおとぎ話」であると同時に、本に対するオマージュがたくさん詰まった作品です。バッグの中に入っていたのは、フランスのノーベル賞作家モディアノのサイン本ですし、公園を散歩中のモディアノ本人も登場してしまうほど。ほかにもフローベールやタブッキや村上春樹などの作家や作品も言及されています。「本と人生をこよなく愛する人」なら気に入るに違いありません。

 

2022/1