りぼんの読書ノート

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アンダルシアの農園ぐらし(クリス・スチュアート)

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イギリスから南欧の農園に移住する話というと、ピーター・メイルさんの『南仏プロヴァンスの12か月』が真っ先に浮かびますが、こちらのほうがハードシップは高そうです。移住先はアンダルシアといっても、シェラネヴァダ山脈の麓の谷間に広がるアププハラスという高地であり、満足な道路も水道も電気も通っていない場所なのです。広くて美しい農園ですが、実情はかなり厳しいことを、著者は引っ越してから思い知らされてしまうのでした。そもそも妻には下見だけと言って出かけてきたのに、全財産をはたいて衝動買いをしてしまったものだから、言い訳だって大変です。

 

それでも2人は着実に自分たちの農園を築いていきます。素朴で温かい隣人たちの助力を得ながら、川に丸木橋を架け、泉からの水路を修理し、屋根にソーラーパネルを取り付け、しまいには家まで建て替えてしまいます。もちろん失敗も多く、鶏は狐に襲われ、牧羊犬が全く役に立たず、ようやく増やした羊は市場で買いたたかれ、大雨で橋は流されるなど、苦労は絶えません。隣人たちから認められ、「エル・イングレス」という念願のニックネームまでもらうに至るには、厳しい道のりだったのです。娘が生まれるという嬉しい出来事もありました。妻をグラナダの産院まで連れて行くのも一苦労だったのですが。

 

成功の理由は、楽天的な性格と、退路を断って移住してきたことですね。そうでなかったら、数か月で諦めても仕方ないほどの苦労は乗り越えられなかったでしょうから。著者が羊の毛刈りの技術を持っていたことも見逃せません。ロックバンドのドラマーをクビになってからさまざまな職業に就いた著者は、羊毛刈り職人として働いたこともあったのです。手作業が普通だったこの地方に、電動毛刈り機を持ち込んだのは彼の功績であり、隣人たちからも重宝されました。やはり一芸に秀でていないと、ギブアンドテイクの関係は難しいのかもしれません。

 

本書が出版された1999年に48歳だった著者は、その後、現地の地方議員になったり、娘さんの大学進学に焦点を当てた続編を執筆したりの活躍を重ねたようです。現在は70歳になっているわけですが、まだご健在で農園暮らしを楽しんでいらっしゃるのでしょう。本書にも、70歳を過ぎても元気で現役の方々もたくさん登場していますので。

 

2021/7