1.ライフ・アフター・ライフ(ケイト・アトキンソン)
事故や病気、犯罪や戦争の犠牲者となるたびに何度も生まれ変わって人生をやり直す女性は、不慮の死を避けて生き延びることを覚えていきます。しかし人生の目的とは、長く生きるだけなのでしょうか。より良い人生とは、どのようなものなのでしょうか。「もしもヒトラーの権力掌握を阻止できていたら。席はどうなっていたか?」という仮想のもとに書かれた本書は、著者の当初の構想よりも複雑で重層的でフラクタルな作品に仕上がったようです。主人公に影響を与え続ける叔母や、物語の不動点となる姉の人生の描き方も素晴らしく、早くも今年のベスト作品の候補です。
2.ザ・ボーダー 上下(ドン・ウィンズロウ)
アメリカの麻薬捜査官アート・ケラーを中心に据えて、メキシコの麻薬カルテルとの壮絶な戦いを描いた大河群像劇の第3部です。本来であれば第2部までで終わっていたのでしょうが、著者に続編を執筆させた動機は、トランプ大統領の誕生というアメリカの変貌にあったようです。新政権によって麻薬取締局長を辞任させられるケラーは、全てを明らかにしてアメリカ国民の良心に訴える決断に至ります。上下巻合わせて1600ページ近い大著ですが、「残忍で愚かな者たちが国境の両側を支配している。しかし壁は建設されない」とのラスト1行に至るまで、一瞬たりとも気が抜けないスリリングな作品でした。
3.三つ編み(レティシア・コロンバニ)
プロローグで「これは私の物語。なのに、私のものではない」と宣言される本書は、3つの大陸にまたがる3人の女性の物語。「女性としての尊厳や女性性の象徴」ともいえる髪を通して、交わるはずもない3人の人生がどのように関わり合っていきます。フェミニズム小説と分類される作品なのでしょうが、彼女たちが戦う相手は男性ではありません。男性優位社会という壁を乗り越えるには、男女ともにフラットな関係で共闘し合うことが必要であることを、本書は示しているのです。
【次点】
・メアリ・ジキルとマッド・サイエンティストの娘たち(シオドラ・ゴス)
・アンチェルの蝶(遠田潤子)
【その他今月読んだ本】
・紅霞後宮物語 第11幕(雪村花菜)
・二百十番館にようこそ(加納朋子)
・駆け入りの寺(澤田瞳子)
・スワン(呉勝浩)
・ダ・フォース 上(ドン・ウィンズロウ)
・ダ・フォース 下(ドン・ウィンズロウ)
・壊れた世界の者たちよ(ドン・ウィンズロウ)
・クリック?クラック!(エドウィージ・ダンティカ)
・植物園の世紀(川島昭夫)
・へぼ侍(坂上泉)
・コイコワレ(乾ルカ)
・レディ・ヴィクトリア 5 ローズの秘密のノートから(篠田真由美)
・おちび(エドワード・ケアリー)
・キッドの運命(中島京子)
・ワカタケル(池澤夏樹)
2021/3/30