りぼんの読書ノート

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ザ・ボーダー 下(ドン・ウィンズロウ)

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アメリカの麻薬捜査官アート・ケラーを中心に据えた「メキシコの麻薬カルテル3部作」がついに完結を迎えます。麻薬取締局長となったケラーが指揮するトップダウンボトムアップの両面作戦はついに交わり、驚くべき人物の関与が浮かび上がってきます。それは次期アメリカ大統領候補の娘婿とメキシコ麻薬カルテルの息がかかった銀行幹部との極秘会談。さらには候補本人との関りすら疑われる発言すら飛び交います。メキシコの銀行屋の「我々は金をきれいにしにきたのであり、ますます汚くしようとしているわけではない」との発言は笑えますが、もちろん笑い事ではありません。これはアメリカ政財界とメキシコの巨額ドラッグマネーが絡む腐敗の構造を意味しているのですから。

 

そんな中で、2016年の大統領選挙結果が明らかになります、ケラーは「この国はもはや知らない国であり、われわれはこんな国民ではなかったはずだ」と失望。政治任用官であるDEA局長をクビになることなど恐れるに足りませんが、彼には証拠固めをする時間が足りません。しかしそもそも、政権中枢を訴えることなど可能なのでしょうか。ケラーに敵対する勢力は、過去の事件を持ち出してケラーに対する訴訟を起こします。

 

一方のメキシコでは、カルテル盟主の玉座争いが激しくなっていきます。第1世代の生き残りであるカーロの陰謀によって、第3世代にあたる息子たちは互いに争いながら次々に退場。最後に勝ち残る者は誰なのか。そして最大の犯罪者が勝者となって全ての権力を握るという構図は変えようがないものなのか。ケラーは直接の手出しを控えているようですが、最大の陰謀を暴かれようとしているカルテル側はそうはいきません。彼らはケラーの命を狙い始めます。

 

そして終身刑や殺害の危機に陥ったケラーは、ついに最後の決断を下します。それは全てを明らかにしてアメリカ国民の良心に訴えることだったのですが、彼の声は国民に届くのでしょうか。上下巻合わせて1600ページ近い大著ですが、「残忍で愚かな者たちが国境の両側を支配している。しかし壁は建設されない」とのラスト1行に至るまで、一瞬たりとも気が抜けないスリリングな作品でした。2019年に出版された本書にの存在も、2020年のアメリカ大統領選挙結果に一役買ったのかもしれません。

 

2021/3