りぼんの読書ノート

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スワン(呉勝浩)

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巨大ショッピングセンターで起きた無差別銃撃事件。2人組の犯人は実弾を装着した模造銃を用いて21名を殺害後に自殺。しかし事件は終了しても、被害者や近親者はトラウマを抱え続けます。しかも事件の最中に取った行動が非難される者までいるのです。

 

主人公の女子高生、片岡いづみもそうでした。逃げ場のないスカイラウンジで犯人から目をつけられ、次に誰を殺すか指名せよと言われたことが暴露されたことで、世間から非難を浴びてしまったのです。そんななか、彼女のもとに招待状が届きます。ある被害者の死の真相を明らかにするために、生き残った5人の関係者が集められたというのですが、その日に何が起きていたのでしょう。

 

ほとんど不可抗力の事態の中でも、もっとやりようがあったのではないかという可能性について、人は反復して思い返すもの。、しかも卑劣な振る舞いをしたという自覚があるなら、その思いは一層深くなるはずです。その日、学校でもバレエ教室でも虐めらていた同級生の小梢と会っていたいづみは、何か疚しい行為をしていたのでしょうか。それとも・・。

 

主人公がバレエに打ち込んでいたこと、ショッピングセンター内の広場や噴水が「白鳥の湖」にちなんで名付けられていることは、いづみと小梢を白鳥オデットと黒鳥オディールになぞらえるための仕掛けですね。このバレエのストーリーは、オリジナルでは救いようがない悲劇であったものが、チャイコフスキーの死後に結末が改変されてヒットしたとのこと。理不尽な悲劇を乗り越える「きれいな結末」とできるかどうかは、演出家や観客ではなく、登場人物である本人が決めることなのです。

 

2021/3