りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

地球のはぐれ方(村上春樹ほか)

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梯久美子さんの『サガレン』を読んで、この本のことを知りました。村上春樹さん、吉本由美さん、都築響一さんの3人からなる「東京するめクラブ」が行った「変な旅行」の中で、サハリンが紹介されていたというのです。確かに本書で紹介されているのは、近場の秘境や、魔都や、不思議な場所ばかりです。この方々の信条は「つまらなく見える町を、なんとかおもしろがろうとする努力」であり、それは「つまらなく見える人生を、なんとかおもしろがろうとする努力」と通じるというのですから。

 

「魔都、名古屋に挑む」

2007年に始まった「秘密のケンミンSHOW」によって、異様な迫力があるナゴヤメシも、破天荒に絢爛豪華な名古屋の結婚式も広く世に知られてしまいましたが、本書が出版された2004年の時点ではまだそれほど全国的な知名度はなかったのでしょう。無駄に広い道路も、怒涛のモーニングサービスも、開店祝いの花泥棒の風習も、はやりユニークです。大都市でありながら「日本は世界の名古屋だったのか」と思わせるほどなのです。

 

「62万ドルの夜景もまた楽し―熱海」

近年のインバウンドや今年のテレワークによって熱海は息を吹き返したようですが、確かに21世紀初頭の熱海は寂れていました。オジサン団体客に頼っていた熱海は、女性たちに敬遠され、家族旅行からも見放されていたのです。最後の頼みだったリゾートマンションが街の廃墟化を推し進めるという現象が起きているのは、もちろん熱海だけではありません。

 

「このゆるさがとってもたまらない―ハワイ」

「ワイキキを堪能するということは、もっとも定番の観光スポットにひるまず挑むこと」だそうです。そして脱力したまま、ダラーッとして過ごすべき町なのだそうです。それこそが正しいリゾートの楽しみ方なのですから。

 

「誰も(たぶん)知らない江の島」

そういえば江ノ島は中学校の修学旅行で行っただけ。土産物屋とサザエのつぼ焼きの印象しかありません。意外と山道は険しく、断崖絶壁の海岸もあり、源平時代以来の重層的な歴史があるところなのですが。江ノ島に渡る弁天橋は、異界へと続く道なのでしょうか。

 

「ああ、サハリンの灯は遠く」

チェーホフが「神に忘れられた土地」と呼んだかつてのロシアの流刑地は、ガス田開発以外の産業はないに等しい辺境の地であり続けているようです。都築さんはサハリンを「西部劇が似合うワイルドウェスト」と呼びましたが、もしも日本領であり続けたら少しは変わっていたのでしょうか。あるいは環境破壊が進んでしまったのかもしれません。

 

清里―夢のひとつのどんづまり」

清里がブームだったのは1980年代だったそうです。ペンション開発や、駅前商店街の原宿化が進んだとのこと。その結果残されたのは荒廃したメルヘンランドであり、ファミリーリゾート地への変身は今なお道半ばのようです。確かに一度行っただけで、乱立する土産物屋と高くてまずいレストランにうんざりしました。唯一楽しめたのは清里北澤美術館だけだったのですが、これも既に閉館されています。ただしやまねミュージアムは面白そうです。

 

2021/2